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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第21話 『普通の依頼』

 翌朝。


 悠は冒険者ギルド前にいた。


 ……少し早く来すぎた。


「……」


 朝のエルド市はまだ静かだった。


 商人の準備。


 掃除する店員。


 通りを歩く人も少ない。


 昨日よりずっと楽だ。


 ノクスは肩の上で欠伸をしていた。


「親……」


「……眠い?」


「親」


 眠いらしい。


 珍しい。


 悠は空を見上げた。


 採取依頼。


 低ランク。


 薬草採取。


 危険度も低い。


 冒険者として最初の仕事。


 緊張はする。


 でも。


 戦闘ではない。


 人間関係も最低限。


(……これなら……)


 多分。


 大丈夫。


「お、早いな」


 声。


 振り向くとレオンが手を上げていた。


 今日も軽装。


 剣を腰に下げている。


「……おはよう」


「おう。ちゃんと来たな」


「……」


 その言い方だと来ない前提みたいだった。


 レオンは笑う。


「いや、冗談冗談」


 気楽だった。


 相変わらず。


 その気楽さが少し不思議で。


 でも。


 嫌じゃない。


 依頼票を確認する。


 内容は単純。


 《青霞草》採取。


 街外れの丘陵地帯。


 低ランク依頼。


「新人向けだな」


 レオンが言う。


「失敗しても死なない。大事」


「……うん」


「まあ稀に蜂に追われる」


「……稀……?」


「たまに崖から落ちる」


「……」


「あと変なキノコ吸う」


「……」


「冗談だ」


 多分半分本当だった。


 エルド市を出る。


 門番に冒険者証を見せ。


 街道へ。


 朝の風が気持ちよかった。


 人混みが遠ざかるだけで少し楽になる。


 ノクスも完全復活した。


「親!」


「元気になったな……」


「親!」


 肩から飛び。


 近くの石へ着地。


 尻尾を振っている。


 レオンが感心した。


「器用な竜だな」


「……小竜……らしい」


「らしい?」


「……拾った」


 卵から孵った、とは説明が難しかった。


 レオンは特に追及しない。


「へぇ」


 それだけ。


 会話は続く。


 主に。


 レオンが。


「この街初めてなんだろ?」


「……うん」


「エルド市は住みやすい方だぞ。飯うまいし」


「……そうなんだ」


「南通りの串焼きおすすめ」


「……昨日……食べた」


「お、分かってるじゃねぇか」


 歩きながら話す。


 悠は基本聞いている。


 時々返事。


 単語。


 短文。


 でも。


 不思議だった。


 リアとの会話とは少し違う。


 リアは明るくて、会話が跳ねる。


 楽しい。


 でも勢いもある。


 レオンはもっと自然だった。


 無理に話を引き出さない。


 沈黙があっても気にしない。


 勝手に喋って。


 勝手に笑って。


 それで成立している。


 だから。


 悠はあまり疲れなかった。


 街道脇の林へ差しかかった頃。


 小さな騒ぎが起きた。


「きゃっ!?」


 子供の声。


 見ると。


 旅人らしい親子が道端で慌てていた。


 原因は。


「親!」


 ノクスだった。


 枝の上で元気に鳴いている。


 母親が青ざめている。


「ま、魔物!?」


「違……」


 悠が言いかける。


 でも。


 説明の仕方が分からない。


 小竜です?


 安全です?


 親呼びます?


 無理。


 軽く固まる。


 レオンが笑って前へ出た。


「大丈夫大丈夫」


 ひらひら手を振る。


「こいつ飼い竜みたいなもんだ」


「か、飼い竜……?」


「噛まねぇよ、多分」


「多分!?」


 余計怖い。


 ノクスは枝から降りてきた。


 そして。


 悠の肩へ。


「親」


 母親と子供が揃って悠を見る。


 その視線に。


 悠は少し緊張する。


(……変な人って思われた……?)


 だが。


 子供の方が目を輝かせた。


「すごーい!」


「え?」


「竜だ!」


 母親も少し安心したらしい。


「……驚きました」


「……すみません……」


 小さく謝る。


 親子は去っていった。


 ノクスは何が起きたか分かっていない顔だった。


 レオンが吹き出す。


「ははっ」


「……」


「お前ら目立つな」


「……不本意……」


「だろうな」


 笑われた。


 でも。


 馬鹿にされている感じじゃなかった。


 悠は少し考えて。


 ぽつりと言った。


「……話しやすい」


 レオンが目を瞬かせる。


「ん?」


「……レオン……」


 言ってから少し恥ずかしくなった。


 評価みたいだった。


 レオンはにやりと笑う。


「お、初評価?」


「……別に……」


「嬉しいねぇ」


「……」


 悠は視線を逸らした。


 でも。


 否定はしなかった。


 やがて。


 目的地の丘陵地帯が見えてきた。


 草原。


 岩場。


 低木。


 依頼票の地図通り。


「ここだな」


 レオンが足を止める。


「《青霞草》は湿った岩陰に多い」


「……分かった」


 悠は周囲を見る。


 普通の採取地。


 危険もなさそう。


 ……のはずだった。


 その時。


 視界に。


 久しぶりのログが浮かんだ。


周辺記録解析開始

汚染反応:微弱検出

深層干渉疑い


「……?」


 悠の足が止まる。


 風景は普通だった。


 草原。


 空。


 岩。


 でも。


 管理権限は違うものを見ていた。


 さらに。


採取地異常反応確認


 胸の奥が。


 小さくざわついた。

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