表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/79

第20話 『動じない男』

 冒険者登録を終えても。


 悠の緊張は終わらなかった。


 むしろ。


 新しい問題が発生していた。


 ――視線である。


 ギルド奥。


 酒場側。


 あの男が、まだこちらを見ていた。


「……」


 悠は金属札を握ったまま固まる。


 男は椅子にもたれ、片手で木杯を持っていた。


 赤茶色の髪。


 日に焼けた肌。


 軽装の革鎧。


 腰には剣。


 冒険者だ。


 しかも。


 雰囲気だけで分かる。


 強い。


 視線に妙な余裕がある。


 ミナが気づいた。


「あれ?」


 男を見て笑う。


「レオンさんだ」


「……知り合い?」


「結構有名ですよ」


 小声。


「この辺じゃ実力者です。人当たりもいいし」


 有名。


 その単語で悠の警戒が少し上がる。


 有名な人。


 つまり。


 会話が上手い。


 コミュニケーション能力が高い。


 眩しいタイプだ。


 苦手かもしれない。


 その時。


 男――レオンが立ち上がった。


 迷いなくこちらへ来る。


(……来る……)


 悠の脳内警報が鳴る。


 逃げる?


 いや。


 もう遅い。


 レオンは気軽な様子でカウンターへ肘をついた。


「よう」


「こんにちは、レオンさん」


 受付嬢が慣れた様子で挨拶する。


 レオンは軽く手を上げ。


 そして。


 悠を見た。


「新人か?」


「……」


 悠。


 停止。


 会話開始。


 脳内処理。


 返事。


 どれくらいの声量?


 はい?


 違う?


 何秒以内?


 結果。


 沈黙。


 レオンは数秒待ち。


 そして。


「なるほど無口型か!」


 勝手に納得した。


「……?」


 悠は少し目を瞬かせる。


 責められなかった。


 変だとも言われない。


 ただ。


 そういうタイプなんだな、と処理された。


 レオンは笑う。


「俺はレオン。冒険者やってる」


「……悠」


「ユウか。よろしく」


 握手の手が出る。


 悠は一瞬迷ったが。


 恐る恐る握った。


 温かかった。


「……よろしく」


「お、喋った」


「……」


 なぜか少し恥ずかしい。


 ミナが楽しそうに見ている。


 レオンは自然だった。


 距離が近すぎない。


 無理に踏み込まない。


 でも。


 壁も作らない。


 妙に話しやすい空気だった。


 レオンは顎を軽く掻く。


「登録したばっか?」


「……うん」


「なるほど」


 視線が冒険者証へ落ちる。


「旅人か?」


「……まぁ」


「へえ」


 それ以上は聞かなかった。


 出身も。


 事情も。


 詮索しない。


 悠は少しだけ不思議だった。


 普通。


 もっと聞かれると思っていた。


 レオンは酒場側へ視線を向ける。


「最近さ」


 木杯を指で回す。


「変な噂あるんだよ」


「……?」


「森浄化」


 悠の肩が微かに揺れた。


「無口な旅人が森をどうこうしたとか」


「……」


 心臓が嫌な音を立てる。


 レオンは笑った。


「まあ大体酒の話は盛られるけどな」


「……」


「沈黙の賢者だっけ?」


 悠。


 静かに視線を逸らす。


 嫌な名前だった。


 まだ街まで来ていたらしい。


 レオンはその反応を見て。


 少しだけ面白そうに笑った。


 でも。


 それだけだった。


 目の色は変わらない。


 強さへの興奮も。


 打算も。


 感じない。


 ただ。


 人を見る目だった。


「……別に」


 悠は小さく言う。


「……賢者じゃ……」


「そりゃそうだ」


 即答だった。


 悠は顔を上げる。


 レオンは肩を竦める。


「賢者ってもっと偉そうだろ」


「……」


「お前、そういう顔じゃない」


 妙にあっさりしていた。


 信じるでも。


 疑うでもない。


 ただ。


 悠という人間を見ている。


 その感覚が少し新鮮だった。


 レオンは木杯を置く。


「で」


 気軽な口調。


「依頼受ける予定あるか?」


「……依頼?」


「新人なら最初は採取とかだな」


 採取。


 その単語に悠は少し安心する。


 戦闘じゃない。


 人も少なそう。


「……採取……」


「おう」


 レオンが笑う。


「ちょうど暇なんだ。一緒にどうだ?」


 ――その瞬間。


 悠の思考が止まった。


(……え)


 一緒?


 つまり。


 パーティ?


 共同行動?


 会話継続?


 脳内会議が始まる。


 待って。


 早い。


 まだ登録したばかり。


 人間関係イベント発生が早すぎる。


 断る?


 でも失礼?


 受ける?


 会話必要?


 どうする?


「……」


 固まる。


 レオンは待っていた。


 急かさない。


 押し付けもしない。


「嫌ならいいぞ」


「……」


「俺も飯相手探してただけだし」


 その言い方が。


 少しだけ気楽だった。


 悠は視線を落とす。


 レオン。


 怖くない。


 多分。


 話しやすい。


 ……気はする。


 でも。


 パーティ。


 難易度が高い。


 非常に。


「……採取……なら……」


「お、決まりか?」


「……たぶん……」


 レオンが笑った。


「たぶんでも十分だ」


 その時だった。


 肩の上。


 ノクスが急に羽を膨らませた。


「……ぐる」


 レオンを見ている。


 警戒。


 そして。


「親!」


 威嚇だった。


 小さく唸る。


 悠は慌てる。


「……ノクス……」


「親!!」


 完全に縄張り主張だった。


 レオンは一瞬きょとんとして。


 そして。


 腹を抱えて笑った。


「はははっ!」


「……」


「なんだこいつ!」


「……竜……」


「いやそこじゃねぇ!」


 笑い声が響く。


 ギルドの空気に混じって。


 悠は少しだけ困惑していた。


 ――この人。


 どうして。


 全然動じないんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ