表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/79

第19話 『受付難易度EX』

 冒険者ギルド。


 エルド市の中心部に近い巨大建築。


 石造り。


 頑丈そうな壁。


 広い入口。


 そして。


 人。


 多い。


「……」


 悠は建物の前に立っていた。


 いや。


 正確には。


 立ったまま動けなくなっていた。


 入ればいい。


 分かっている。


 宿探しより先に、ここで登録した方が何かと便利だろう。


 仕事。


 情報。


 身分証明。


 異世界知識としても、それくらいは知っている。


 でも。


 問題はそこじゃない。


 入口である。


 まず。


 入る。


 そして。


 受付。


 会話。


 質問。


 社会。


「……」


 難易度が高い。


 かなり。


 五分経過。


 悠はまだ入口にいた。


 中から冒険者が出てくる。


 笑い声。


 酒の匂い。


 武器の音。


 完全に別世界だった。


(……帰ろうかな)


 まだ何もしていない。


 でも精神はかなり削れていた。


 十分経過。


 まだいる。


 もはや不審者である。


 ノクスが肩の上で首を傾げた。


「親?」


「……考えてる」


「親」


 何を考えているのか。


 本人もあまり分かっていない。


 その時だった。


「……ユウ?」


 聞き覚えのある声。


 悠はびくりと肩を震わせた。


 振り返る。


 そこにいたのは――。


「ミナ……」


 栗色の髪。


 軽装の旅装束。


 書類鞄を肩にかけた女性。


 ミナだった。


 街出張中らしい。


 彼女は目を丸くする。


「え、本当にユウ!?」


「……」


「ルーン村以来じゃないですか!」


 明るい。


 相変わらず明るい。


 悠は少し目を瞬かせた。


 そして。


 内心。


(助かった……)


 ものすごく助かった。


 救済イベントだった。


 ミナはギルドと悠を交互に見た。


「……あれ?」


 にやっと笑う。


「もしかして」


「……」


「入れないんです?」


「……」


 図星だった。


 悠は静かに視線を逸らす。


 ミナは笑いを堪えきれない。


「ふふっ……」


「……」


「大丈夫ですよ」


 ぽん、と肩を叩く。


「私いますから」


 その一言が妙に頼もしかった。


 数分後。


 悠はギルドの中にいた。


「……」


 ――騒がしい。


 まずそれだった。


 広い。


 酒場と受付が一緒になったような空間。


 冒険者たちが食事し。


 依頼書を見て。


 武器を背負って行き来している。


 笑い声。


 怒鳴り声。


 乾杯。


 情報交換。


 熱量が凄い。


 悠は入口で少し固まった。


(……無理かも)


 完全アウェーである。


 村の比じゃない。


 視界にログが浮かぶ。


周辺人口密度:高

共鳴値:7.4→6.8


(下がってる……)


 人混み反応だった。


 ミナが苦笑する。


「そんな顔しなくても食べられませんよ?」


「……」


「多分」


「……多分……」


 不安になる言い方だった。


 受付へ向かう。


 カウンターには若い受付嬢がいた。


 慣れた笑顔。


「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はご登録でしょうか?」


 悠。


 停止。


「……」


 声。


 近い。


 質問。


 視線。


 脳内が一気に処理落ちする。


 ミナが横で助け船。


「登録ですー」


「かしこまりました」


 受付嬢が紙を出した。


「では確認しますね」


 笑顔。


 優しい。


 でも。


 質問は来る。


「お名前は?」


「……」


 悠の喉が止まる。


 言える。


 名前だけ。


 簡単。


 なのに。


 微妙な間が生まれる。


「……ぁ……」


 声が小さい。


 受付嬢が少し身を乗り出す。


「はい?」


「……ゆ……」


 止まる。


 なぜか止まる。


 脳内で余計な会議が始まる。


 聞き返された?


 もっと大きく?


 変じゃない?


 遅くない?


 結果。


 沈黙。


 受付嬢が少し困る。


 ミナが即介入した。


「ユウです! ユウ・マシロ!」


「ありがとうございます」


 受付嬢。


 慣れていた。


 優しい。


 続く。


「ご職業は?」


 職業。


 職業?


 悠は止まった。


(……無職……?)


 転生前ならそうだった。


 今は?


 旅人?


 居候?


 元・村の工事人?


「……」


 長い沈黙。


 受付嬢が少し困った顔になる。


 ミナ。


 再び介護モード。


「これから冒険者です!」


「あ、なるほど」


 受付嬢苦笑。


 そして。


「ご出身は?」


 悠。


 完全停止。


 出身。


 日本?


 アーカイブ?


 異世界転生者です?


 無理。


「……」


 固まる。


 受付嬢。


 ミナ。


 数秒待つ。


 悠。


「……ぁ……」


 フリーズ。


 ミナが吹き出した。


「大丈夫です大丈夫です! ちょっと人見知りなんです!」


「ふふっ」


 受付嬢も笑う。


「緊張されてます?」


「……」


 こくり。


 頷く。


 素直だった。


「大丈夫ですよ」


 受付嬢は慣れた様子で書類を進める。


「怖くありませんから」


「……」


 悠は少しだけ安心した。


 ほんの少し。


 ミナは完全に保護者だった。


「ほらユウ、ここサインです」


「……うん」


「文字読めます?」


「……少し」


「偉い!」


「……?」


 褒められた。


 なぜか分からない。


 それでも。


 書類は進む。


 登録料。


 規約説明。


 危険依頼。


 階級制度。


 全部ミナが補足した。


 介護だった。


 ほぼ。


 やがて。


 受付嬢が一枚の金属札を差し出す。


「登録完了です」


「……」


 悠は受け取った。


 冷たい。


 小さな金属板。


 刻まれた文字。


 冒険者証。


「本日より冒険者登録が有効となります」


 その言葉に。


 悠は少しだけ目を見開いた。


 冒険者。


 肩書。


 社会的身分。


 異世界へ来てから初めて。


 どこかに所属した証だった。


「……」


 妙な感覚だった。


 嬉しい。


 ……のかもしれない。


 まだ実感は薄い。


 でも。


 無職ではなくなった。


 少なくとも。


 それは少しだけ感慨深かった。


 ミナが笑う。


「おめでとうございます、冒険者ユウさん!」


「……ありがとう」


 小さく言う。


 その時だった。


 妙に強い視線を感じた。


「……?」


 悠は反射的に振り向く。


 ギルド奥。


 酒場側。


 一人の男がいた。


 長身。


 赤茶色の髪。


 軽装の剣士。


 年齢は二十代半ばくらい。


 陽気そうな雰囲気。


 その男は。


 こちらを見ていた。


 興味深そうに。


 そして。


 にっと笑った。


 悠は少しだけ身構える。


(……誰……?)


 男は椅子にもたれながら。


 楽しそうに目を細めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ