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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第11話 『夜の工事人』

 その日の夜。


 悠は寝台の上で静かに目を開けていた。


「……」


 眠れない。


 理由は簡単だった。


 交流疲れである。


 村人たちは悪い人じゃない。


 むしろ優しい。


 リアも親切だ。


 ドルフも怖いだけで面倒見がいい。


 問題は。


 自分の方だった。


 昼間の出来事が頭の中で再生される。


 話しかけられた。


 返事した。


 見られた。


 働いた。


 褒められた。


 精神力をごっそり使った。


(……疲れた)


 布団に顔を埋めたい。


 できれば三日くらい。


 でも。


 そういうわけにもいかない。


 居候である。


 飯を貰い、寝床を借りている。


 何もしないのは落ち着かない。


 かといって。


 昼間は人がいる。


 つまり。


 結論は一つだった。


(……人と会わなければいい)


 夜活動。


 完璧な解決策である。


 悠は静かに起き上がった。


 隣室からはドルフの寝息。


 外は暗い。


 月明かりだけが村を照らしている。


 足音を殺し、そっと家を出た。


 夜のルーン村は昼と別の顔をしていた。


 静かだった。


 風。


 虫の声。


 遠くの水車。


 人の気配が薄い。


 それだけで少し安心する。


「……」


 悠は村を歩く。


 そして。


 昼間から気になっていた場所で立ち止まった。


 水路。


 畑へ水を引くための細い流れだ。


 だが。


 崩れていた。


 石積みが歪み、水が少し漏れている。


 大問題ではない。


 でも効率は悪そうだった。


(……直せそう)


 そう思った瞬間。


 視界に光が浮かんだ。


修復対象確認

管理権限待機中


「……」


 最近もう驚かなくなってきた。


 慣れとは怖い。


 悠は周囲を見回した。


 誰もいない。


 よし。


「……修復」


 半分、独り言だった。


 次の瞬間。


 石積みが動いた。


「……!?」


 音は小さい。


 だが。


 水路の石が自分から位置を変え始めた。


 歪みが整う。


 隙間が埋まる。


 流れが滑らかになる。


 まるで完成図を知っているみたいに。


 数秒後。


 終わっていた。


「……」


 悠はしゃがみ込んで確認する。


 綺麗だった。


 職人仕事みたいに。


(……すご)


 自分でも少し引く。


 管理権限。


 便利すぎる。


 そこで。


 思ってしまった。


(……他も直せるんじゃ)


 善意だった。


 本当に。


 少なくとも最初は。


 次に向かったのは畑だった。


 昼間見た時。


 土が少し痩せていた。


 水の流れも偏っている。


 管理権限が反応する。


土壌最適化候補

実行可能


「……え」


 そんなことまで?


 しかし。


 やってみる。


 土が静かに波打った。


 硬い場所が柔らかくなり、水は均等に巡る。


 畝が整う。


 作物の根周りまで調整されていた。


「……」


 やばい。


 楽しさがある。


 DIY動画を見る感覚に近い。


 しかも失敗しない。


 気づけば。


 井戸の縁も補修していた。


 軋んでいた滑車も改善。


 石畳の段差も修正。


 やり始めると止まらない。


 悠は作業しながら思う。


(……昼間より楽だ)


 人がいない。


 会話がない。


 視線もない。


 でも。


 役には立てる。


 それが妙に落ち着いた。


 善意。


 そして逃避。


 半分ずつだった。


 全部終わった頃には、空が少し白み始めていた。


「……」


 悠は我に返る。


 やりすぎた気がする。


 かなり。


 急いでドルフの家へ戻り、何食わぬ顔で寝台へ潜り込んだ。


 そして。


 朝。


「おい!!」


 外から声が響いた。


 悠は飛び起きる。


「水路が!?」


「畑見たか!?」


「井戸まで直ってるぞ!」


「何だこれ!?」


 騒がしい。


 ものすごく。


 悠は嫌な予感を抱きながら外へ出た。


 村人たちが集まっていた。


 水路。


 畑。


 井戸。


 みんな興奮している。


「奇跡だ!」


「水の流れが全然違う!」


「誰がやった!?」


「職人呼んだ覚えねぇぞ!」


 悠は静かに固まった。


(なんで!?)


 いや。


 分かる。


 原因は自分だ。


 でも。


 そんな騒ぎになる?


 ドルフが修復された井戸を見て唸る。


「……見事だな」


 リアも目を丸くしていた。


「すご……」


 悠は視線を逸らした。


 落ち着け。


 黙っていれば。


 たぶん。


 大丈夫。


 そう思った。


 しかし。


 村人たちの推理は既に始まっていた。


「夜のうちにやった?」


「こんな技術ある奴いたか?」


「村の外か?」


「もしかして加護持ち……?」


 ざわざわ。


 ざわざわ。


 嫌な方向へ盛り上がっていく。


 そして誰かが言った。


「犯人探そうぜ!」


 悠は青ざめた。


 ――完全に、自分の想定を超えていた。

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