初めてのクレープ屋さん
鮫島木乃香・・・高2に上がるタイミングで転校してきた。知り合い0人の新天地だと思っている。
神田柚季・・・バスケ部。1年の頃コノカに会ったことがあると思っている。
放課後。わたしはユズキに腕を引かれ、校門前まで連れてこられた。
一緒についてきたズミさんがユズキに問いかける。
「ユズキあんた部活は?」
「サボる〜ぅ。テキトーによろしく」
「おっけ。じゃあ転校生に校舎とか案内してることにしとく」
「ナイス〜」
ユズキは親指を立てた拳をズミさんに突き出す。
ズミさんは拳をスルーして校庭の方に歩いて行ってしまう。
本名を聞けなかった……。出席番号が最後の方だったのは覚えているが、席も遠いし一度の自己紹介では全員覚えられなかった。
「よし、行こう!」
わたしがぼんやりとズミさんの後ろ姿を眺めていると、再びユズキが手を引いてくる。意外と強引ではなく、ふんわりとしたボディータッチには、なぜか断れない魔力があった。
高校から最寄りの駅までは歩いて15分ほどあるが、その間ユズキは学校のことを話してくれた。部活の種類、文化祭と体育祭の時期、赤本を落とすと「金本と銀本」を持った受験女神が出てくる中庭の池の噂……。
金本と銀本?
そうこうしているうちに、駅前のクレープ屋さんにたどり着く。ピンクをメインにした外装が可愛らしい。
「じゃじゃ〜ん、私とコノカが1年前に来たクレープ屋で〜す!」
「ここは…………!」
店構えを見て確信した。ここは、間違いない。
「来たことない!」
「うっそー……本当に? マジでない? 」
ユズキは上目遣いにまたわたしの顔を覗き込んでくる。
道中この話がなかったので、教室での会話は強めの幻覚かと思いかけたが、やはり現実だった。ユズキは決定的に思い違いをしている。
「わからないよ……。ユズキがどうしてわたしを知ってるのか、ちゃんと教えてほしい……です」
「……そっか。わかった。とりあえず注文しよ! 食べながら話すね。……あ、コノカの分、わたしが決めてもいい? 去年食べてたヤツと同じのにする。もしかしたら思い出すかもしれないから」
「…………うん」
何もわかってないじゃない。その記憶喪失扱いをやめてほしいのだ。
テラス席に座ったわたしの手には、イチゴがたっぷりのクレープがあった。ユズキの方はバナナだ。帰り道にクレープなんて、なんだかJKっぽい。
「クレープとか、あんま食べない?」
「うん。何年ぶりだろう」
「……へへっ。私も1年ぶり」
「それって」
「そう。コノカと食べたんだ。ちゃんと話すけどさ、と言ってもそんなに長い話じゃないんだよ?」
ユズキはクレープにかぶりつきながら、話し始める。わたしも負けじと口を開けて頬張りながら、耳を傾けた。
「本当にちょうど1年前くらい……部活も決まってなかったから、学校始まって1週間しか経ってないくらいのとき? 私が一人で帰ってたら、後ろからギャルっぽい人に話しかけられて」
ギャル?
さっそくわたしではなさそうだ。
「それでさ〜……」
*
「へいへーい、そこの女の子!」
「……え、私ですか?」
「そだよー。暇ならわたしと遊ばない?」
「え……誰ですか……」
「わたしは鮫島木乃香! 同じ高校でしょ? 遊ぼー」
私神田柚季はこのとき、制服を見て、その鮫島木乃香が同じ高校であることをじっくりと確認した。
「まあ……いいけど。えっと、先輩ですか?」
「え、え、1年。え、え、先輩?」
「あ、いや、私も1年。神田柚季です」
「柚季! 柚季っぽい顔してるね。似合ってる〜ぅ」
「マジ? それってなんか…………嬉しいかも」
*
「それで、この後このお店でクレープ食べて、解散したの」
「同姓同名ぃぃ……」
さめじまコノカが2人も存在するなんてありえるだろうか。重複するほどありきたりな名前ではないと思っていたのだが……。
「じゃあこの学年にもう一人さめじまコノカがいるってだけのことじゃないの? わたしは今日からこの学校に来たんだから、そのコノカさんじゃないよ……」
「普通はそう考えるよね。でも私さ、その後めっちゃ捜したの! 学年中!」
「捜した……?」
「そうだよ。休み時間とか全クラスまわって、鮫島さんっていますか〜って。でも、いなかったの」
「なるほど…………」
ここで、教室でのズミさんの反応を思い出す。それでズミさんも「コノカ」を知っているような素振りだったのか。
「でも、なんでそんなに探し回ってたの?」
「え? 面白かったから。友達になろうと思って。連絡先教えてくれなかったんだもん」
「そうなんだ。ごめんね、別のコノカで……」
わたしはクレープの最後の一口を飲み込みながら謝罪する。
「…………あっはは! 何言ってんの。こっちこそ朝からごめんね。決めつけて無茶苦茶なこといっぱい言っちゃったね」
眉をひそめて笑うユズキの手には、まだクレープが残っている。
「あ……食べるの早くて、ごめん……」
「えーいいよいいよ。めっちゃ食べてて可愛いと思った。私のも一口食べな? ほれほれ」
「んむー」
ユズキがクレープをグイグイ押し付けてくる。申し訳なくて口を開けられない。
「よし。とにかくこれで私たち友達だね。去年のコノカは謎のままだけど、あなたと仲良くしたいな」
「いいの……? でも本物のコノカが見つかったら……」
「あなたも本物のコノカでしょ。余計なこと言って、まじごめん。もう1人コノカが出てきたら、2人と仲良くする。どっちも本物!」
「わかった。もしかしたらドッペルゲンガーで対消滅するかもしれないけど、それまでよろしく」
「うん!」
ユズキはわたしに返事をしてくれた後、残りのクレープを全部口の中に詰め込んで幸せそうだった。




