第7話 Sniper:A-Katsumi
「あんだけ空薬莢をばらまいて5発か。が、初心者がフルオートで撃ったにしては、むしろ筋が良い方だ。
反動にビビって銃を振り回したか、筋力が追いついていないな。
筋力がないなら、いっそ寝そべって撃つ方がいいな。
次は狙撃銃だ。地面に這いつくばって、その重さを地面に預けろ」
渡されたのは、MP5よりさらに倍以上重く、長さなんて僕の身長の三分の二近くある、重厚な金属の質感を湛えた、『M24 SWS(Sniper Weapon System)』と表示された狙撃銃だった。
「わわっっと。うぅぅ……たしかに、これ持って撃つなんてできません……」
「だから這いつくばって撃てと言っておる」
あれ、なんか軍曹の口調が少しだけ柔らかくなった気がする。ま、たぶん気のせいだ。
システムメッセージと銃の持ち方の映像が流れてくる。
『発射可能状態はレバーを前方へ押し込みます。このとき、レバー付近に「F(Fire)」の刻印や赤いドットが見える状態になります。
発射不可能状態はレバーを後方へ引き戻します。この状態では通常、刻印が「S(Safe)」となります。
使用弾薬は、中口径弾(7.62x51mm NATO弾)。次弾装填は、ボルトハンドルを上方へ跳ね上げ、手前へ引ききった後、再び前方へ押し戻し、ハンドルを元の位置まで倒し込むことで完了します。
打ち方は伏射とよばれ、地面に伏せて銃器のフロント部分の銃架を接地。銃床を肩の窪みに固定します。
照準はスコープを覗き、十字線を標的に重ねて撃ちます』
なるほど、地べたに這いつくばれば、腕もぷるぷるしないよね。
「えっと、これを上げて、引いて……あぁ、重い」
でも、ガチンという重厚な手応えと共に、親指ほどの大きさがある中口径弾が薬室に吸い込まれていく。
鬼軍曹が「もたもたするな!」と僕を急かす。
「次は50メートル先の標的だ。今度は連射でのごまかしは効かん。弾倉には5発入っている。全弾撃ってみろ」
「イエス・マム!」
「その弾は1発1ゴールドだ、無駄にするなよ。一発に全てを込めて撃てッ!」
命令に従い、地面に這いつくばる。あんなに重かった銃が、バイポッドを介して地球と一体化したように安定した。
親指でカチリとロックを解除する。頬当てに触れる肌に、金属の冷たさが伝わってきた。
ゴーグル越しにスコープを覗くと、標的――肉眼では真ん中の豆粒のようだった黒い円――が、暴力的なまでに拡大され、揺れている……。
と、……あ、止まった――。
鼓動に合わせて揺れていたレティクルが、呼吸を吐ききった瞬間ピタリと標的のど真ん中に静止した。
僕はなぜか、いままで撃ってきた銃と同じようには引き金を引かなかった。
指先を『じわー』っと、少しずつ絞り込んでいく。
いつ弾けるか分からない、張り詰めた糸のような緊張感。
その瞬間は、唐突にやってきた。
――ッドォォォォォンッ!
キィィィィィン――。
鼓膜を揺らす轟音と、銃口から放たれる衝撃波。
MP5とは比べものにならない暴力的な反動が、僕の右肩を強く突き飛ばす。
けれど、約7キロの鉄の塊は微塵も跳ね上がることなく、硝煙がたなびくスコープの視界には、標的の中央に穿たれた黒い穴がはっきりと映っていた。
当たった……!
「ほほう。まぐれかもしれないな……。だが、生体情報は、発砲の瞬間に凪いでいたぞ」
鬼軍曹の言う通り、まぐれかもしれない。でも、引き金を引く瞬間だけは、あんなに苦しかった呼吸も、心臓の鼓動も、すべてが止まっていたような気がした。
余韻に浸る間もなく、右手でボルトハンドルを跳ね上げ、手前に引く。
シャコンッ!
排莢口から熱を帯びた真鍮が弧を描いて飛び出し、キンッと高く涼やかな音を立てて転がった。
再びボルトを押し込む。次弾がガチンと室内に送り込まれ、重い金属音が僕の指先に「準備完了」を告げた。
僕は夢中になり、次々と射撃を繰り返す。
弾はすべて、標的の中央に吸い込まれていった。
「5発全て同じ穴か。50メートル先、コイン1枚の狂いもない。おい、さっきの『話にならん』は取り消してやる。貴様、狙撃手の資質だけは化け物じみてやがるな」
それから鬼軍曹は、こういった。
「貴様はいまから一人前の兵士だ。スナイパーを選択するか? どうだ?」
「イエス・マム! 僕はスナイパーになります!」
「よし、それならそのM24 SWSが貴様の新しい『腕』だ。支給品はそれと、10ゴールドだ。弾丸1発が1ゴールドの世界で、その銃に敵の血をどう吸わせてやるか、死ぬ気で考えろ」
「イエス・マム!」
鬼軍曹が僕の職種をスナイパーに書き換えると、ゴーグルの隅で明滅していた青白い文字が、『Sniper:A-Katsumi』へと音もなく更新された。
「Good luck!」
その声を聞くと同時に、僕の視界はホワイトアウトした。




