第65話 アナベル・スチュアート
セントラルシティ中央。第6回PvP大会『オーバー・ザ・ホライゾン』本戦会場エントランスホール――。
湧き上がる怒号と歓声、悲鳴、あらゆる感情が混じりあった喧騒の中、僕たちは帰還した。
「お、お前らが――『黄金凶星』か!?」
「も、もしかして、あの子が『赤眼の凶星』? 俺、予選で撃たれたぞ。まさか優勝するなんて――」
「おおぅ!?」
「おい、オッズは何倍なんだ?」
「あー俺、一文なしになった」
無責任な野次馬たちの声が、あちこちから飛んでくる。
あー、なんかごめん。この戦闘、僕らも必死だったんだよー。
そう苦笑しながら、僕たちは逃げるようにベルさんの店に向かった。
30分近く、それこそ命を削るような死闘を終えた直後だ。本当はすぐにでもログアウトしたかったんだけど、ベルさんの「どうしても」という願いを断れなかった。
店に着くなりベルさんの口からこぼれた言葉は、僕たちの高揚を凍りつかせるほど衝撃的なものだった……。
それは、僕たち三人への、あまりにも唐突な別れの言葉だった。
「私、明日からもうログインできないみたいなんだ。やる事も全部済ませちゃったし……だから、このお店は君たちが継いでね。閉店させるのは、悲しいから――」
それが冗談ではないことは、彼女の透き通るような微笑みを見ればわかった。
彼女はそこで初めて事実を明かした。
本名は「アナベル・スチュアート(Annabelle Stuart)」、日本名は「鈴原聖良」
プレイヤーネームは、愛称の「ベル」から取ったんだよ、と。
自宅は横須賀の海軍基地のそばで、両親は民間人として基地内で働いていて……これはいつだったか、僕だけに話してくれた内容だった。
母親がハーフで、自分はクォーターであること。学校では日本名で籍を置いていると。
祖母が横浜出身という縁で、三春台学院に進学したこと。
堰を切ったように語られる彼女の「現実」を、僕たちはただ立ち尽くして聞くことしかできなかった。けれど、なぜログインできなくなるかは教えてくれなかった……。
翌日――。
僕たち三人は、祈るような気持ちで店へ向かった。けれど、ベルさんの姿はどこにもなかった。
一週間経っても――。
カウンターには、あの日と同じ静寂だけがあった。
それからしばらくして、僕たち三人の足も仮想世界から遠のいていった。




