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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第53話 黄金の境界、あるいは守護者の焦燥

 12月13日


 中間試験もマークシートのおかげで、オンラインで受けることができた。これでおそらく進級はできる……と思いたかった。


 試験期間中はダイブできなかったけど、今日からはまた、あの世界に戻れる――僕は三日目の試験が終了すると同時にVRギアを被った。


 +++


 一週間の空白を経て戻ってきたベルさんの存在は、『BELL’S AMMO』の店内の空気を一変させていた。


 再会の喜びよりも先に、僕たちの間に横たわったのは、これまで以上に鋭利な「戦場」の気配だ。


黄金(ゴールデン)凶星(アステリズム)……か」


 八代が、システムメニューに新しく登録されたユニット名をつぶやくように口にした。その声に、いつもの軽薄な明るさはない。


不協和音(ディソナンス)ってのも、俺たちらしくて嫌いじゃなかったんだけどな。

 カツミの二つ名を持ってきたってことは、それだけ本気だってことか。なあ、ベルさん」


 ベルさんが本気なのを知っている僕は何も言えず、ただ八代の隣でコーヒーを啜ることしかできなかった。


 エイトはカウンターのベルさんを真っ直ぐに見据えた。

 その視線の端には、彼女が当然のように僕を「カツミ」と呼び捨てにしていることへの、不満とは違う、違和感が含まれていた。


 現実の親友として呼び続けてきたその名前を、ベルさんが「こちら側」で、まるで魂を共有する戦友を呼ぶように響かせている。その事実に、彼は直感的に感じ取っているようだった。


「あら、不満かしら? エイト」

 ベルさんはホロ・タブレットから目を離さず、淡々と答える。


「不満じゃねーよ。ただコイツが、どんどん俺の知らないスナイパーになっていくのが、少しだけ……しゃくなだけだ」


 エイトは僕の肩を軽く叩き、笑ってみせた。けれど、その指先には「カツミをあっち側に繋ぎ止めておきたい」という、守護者としての微かな力みがこもっていた。


「お喋りはそこまでよ。不満があるなら、カツミ以上の戦果を出しなさい。

 それができないなら、あなたとテツはカツミの『光』を支える、『黒衣(くろご)』に徹してもらうわ。

 今日は全員揃ってるからちょうどいいわ」


 ベルさんは予選のトーナメント表を僕たちの前に展開した。

 同時に表示された、僕のステータス。


『Synchronization rate: 79.0%』


 ベルさんが戻り、季節は一気に加速し始めた。

 なのに、僕の数値だけは「79.0%」の地点で、停止したままだった。


 ベルさんは僕のそんな思いを知ってか知らずか、レギュレーションの説明を始める。


「いい? 今回の『オーバー・ザ・ホライゾン』は、前回ベスト4の「絶対シード」を除いた、124ユニットによる予選から始まるわ。

 全4ブロック、各ブロック31ユニット。本戦への切符は、その中の上位3枠だけよ」


 ベルさんの指先がホロ・タブレットを弾くと、複雑に枝分かれした巨大なトーナメント図が空間に浮かび上がった。


 31ユニット中、3ユニット。

 僕たちが戦うブロックのトーナメント表の端、一枠だけ用意された不戦勝の『シード枠』には、すでに前回5位のユニット名が刻まれている。

 彼らは二回戦からの登場だ。

 対して、僕たち『黄金凶星ゴールデンアステリズム』の名前は、一番下の一回戦枠に、名もなき挑戦者として放り込まれていた。

 幸いにも、シード枠のユニットとは、予選決勝まで当たらない。


 シード勢が1回戦を温存して待ち構えるなか、僕たちは最大で5回、1回戦から決勝の連戦を、環境の違うフィールドで戦い抜く必要があるんだ。それは一度の敗北も、一瞬の油断も許されない、文字通りの『生存競争』だった。


『オーバー・ザ・ホライゾン』――水平線の向こう側にある、一辺4キロメートルの神域。


 そこに辿り着くためには、この31分の3という地獄を、一回戦から泥にまみれて突破しなきゃいけない。


「予選の5回、すべてフィールド環境は変わるわ。エイト、テツ。あなたたちは、どの環境に放り出されても、カツミが引き金を引くための『1秒』を作り出しなさい。それが『黄金凶星ゴールデンアステリズム』の戦い方よ」


 ベルさんの冷徹な宣言に、僕は自分の指先を強く握りしめた。


 79.0パーセント。

 この止まったままの数値が、4キロメートルの神域に辿り着くまでに、僕をどう変えてしまうのか。僕は、それが怖かった。


「31分の3か。面白れーじゃねーか。その1秒、俺たちが力ずくで奪ってやるよ」

 エイトが、焦燥を闘志に塗り替えるように、僕の肩を強く叩いて笑った。


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