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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第54話 十二月二十二日の号砲、あるいは白銀の接続

 予選までの日数は、10日を切っている。12月22日が予選一回戦だからだ。毎週日曜20時。1月19日の予選決勝まで、負けられない地獄が続く。


 そしてその先――2月2日の20時に、本当の地獄が待っている。


 予選のルールは単純だ。最大六人のユニットメンバーのうち、一人でも生き残った方の勝ち。たとえ戦闘不能状態であっても、最後の一人が死亡判定されてリスポーンするまで勝敗は決まらない。

 そう説明されると人数が多い方が有利に思えるけれど、僕たちの場合は当てはまらない。


 なぜって?

 この大会の仕様(レギュレーション)では、敵ユニットの情報は『リーダーの位置』しかマップに映らない。けれど、僕の新たなレアスキル『アブソリュート・シンクロニシティ(絶対座標把握)』は、システムの制限すら超越する。


 たとえば霧の向こうや壁の裏。本来なら誰も視認できないはずの敵全員の『存在』を、僕の眼は「座標」としてダイレクトに捉えることができる。

 そしてその光景は、もう一つのスキル『センス・シンクロニシティ(真実の結果の可視化)』を通じて、僕とベルさんの間でだけは完全に同期されていた。

 僕が頭の中に視えた必中の弾道が、そのままベルさんの視覚野にも映し出される。僕が「視ている」ものは、ベルさんも「視ている」んだ。

 この共有された「眼」が羅針盤となり、座標を的確に指示することで、『視る』スキルがないエイトやテツさんは、まるで見えているかのような最短距離で敵を仕留めることができる。


 僕が「眼」として機能する限り、僕たちは死角のない無敵のユニットになれる。


 とはいえ、そこまで僕のスキル頼りでは、プレッシャーで発動しない万が一の事態も考えられる。だから、ベルさんには僕の感覚を底上げするバックアップを務めてもらうことになっている。


黄金凶星ゴールデン・アステリズム』は、ベルさんをリーダーに四人でこの予選に挑む。


「予選期間中はどこで誰が見ているかわからないから、PvPは一切禁止よ」

 ベルさんからの厳しい命令があった。


 12月22日、18時。


 いつもだったら、もうダイブしてる時間。だけど今日は19時に店に集まることになっている。


 先に夕食を済ませる僕を不思議がる母さんに、予定を話す。

「母さん。今日からしばらく毎週日曜は……」

 うまくいけば、2月の本戦に出られることも。


 ゲーム内での出来事は、だいたいのことは食事のときに話している。まるで学校であったことを報告するように。八代以外にも大切な仲間、大切な人ができたこと。


 そして、つい、八代のことを「エイト」って言ってたみたいだったけど、自分じゃ気がついてなかった。

 母さんに、「それは誰?」って聞かれて初めて気がついた。そのことも説明する。

「じゃ、克美は?」って聞かれて、「あー、カツミだよ」って答える。

「克美はそのままなのね。ふふっ」


 いつかの八代と同じような反応だった。少しは工夫すればよかったかな? でもあまり違うのにして、リアルで八代あたりから呼ばれたらそれこそ恥ずかしいから、これでよかったのかな。


 ゲームを始めてもう一ヶ月以上経つけど、こんなにゲームのことを母さんに話したのは、たぶん初めてだ。


 母さんは、僕の話を嬉しそうに聴いてくれた――。


 +++


 店に集まり、四人で予選会場へと向かう。

 そこは、想像していたような喧騒とは無縁の場所だった。

 ブロックごとに隔離された待機エリア。

 そこには、31のユニットナンバーが刻まれた金属製のドアが等間隔に並んでいた。僕たちは、第4ブロックの31番。

 トーナメント表の一番下、シード権を持つ前回5位のユニットから最も遠い場所だ。


 物音一つしない静けさが、かえってこれから始まる「(バトル)」の予感を膨らませた。

 時間がくると、あのドアの中の待機場から戦場に転送されるんだ――。


 現実世界の横浜では、街がクリスマスの光に包まれている頃だろう。

 けれど、僕の視界にあるのは、網膜を焼くような不気味な「白」だけだった。


 転送先の予選特設フィールド『白銀の廃都』――そこは霧に覆われた廃都市だった。


 一回戦の相手は『サイレント・スウォーム』、リーダーはハイド。

 六人編成で、全員がサブマシンガンを装備した数に物を言わせる近接特化ユニットだ。


「クソ、マジかよ。自分の銃口すら霞んでやがる」

 エイトが、手元のM16Aを確認しながら、悲鳴に近い声を上げた。

 通常のアバターの視覚では、3メートル先すら白濁した霧に溶けている。けれど、僕の脳内に展開されている『絶対座標』は、この不透明な世界を透かし見ていた。


「……大丈夫だよ、エイト。全部、視えてるから」

 僕はM24の引き金に指をかけ、冷たく、そして静かに告げた。


 ――視える。方位210、距離120――霧の向こう、崩れたビルの裏側を這うように近づいてくる、六つの熱源。


「ベルさん……来ます。扇状に展開して、こちらを囲むつもりです」


 僕が言葉を発した瞬間、ベルさんとの『センス・シンクロニシティ』が加速し、僕が捉えた「正解」が、彼女の視界へと転送される。

 二人の「眼」が、白銀の死地で重なった。


「二人ともアシスト・マーカーは切っておいて」

 ベルさんの指示が飛ぶ。

「「えっ!?」」

 テツさんと八代はその指示に驚く。


「いいから、指示どおりにやればものの数分で片が着くわ。テツ、カツミの合図で指示した方向に一斉掃射よ。エイトは敵の弾道予測線バリスティック・ガイドが視えたら、発射点を集中的に狙って」

「「はい!」」

 戦場では命令に従わなければ、死があることを二人は理解し始めている。それ以上は何も言わずに、僕の指示を待つ。


 六つの影は、リーダーを中心に左右約30度で展開された陣形で、距離100のビル前に出てきた。


「テツさん! 方位角180から240の間を距離100で掃射してください!」

「うりゃー!」


 パパパパパパパパ!

 途端に左右に向けて響く、ミニミの発射音。


「エイトはバリスティック・ガイドを目標に3点バースト。すぐに回避行動を!」

「わかってる!」


 タタタンタタ! ドドドド! タタタタタ!!!

 ダダダダダダ! タタタン!!


 M16Aと、敵のサブマシンガンの発射音が入り乱れる。


 僕にはバリスティック・ガイドは見えないけど、八代が確実に相手を捉えているのがわかる。撃ちながら右に左に移動し、被弾回避する。


 僕は二人が撃ち漏らした敵を一人ずつポリゴンの光に変えていく――。


 ベルさんが言った通り敵の反撃は僕の合図から3分43秒で止まり、周囲は静寂に包まれた。


 そしてシステムのアナウンスは、『勝者、「黄金凶星ゴールデン・アステリズム」』とだけ無機質に告げた――。


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