第51話 晩秋の残像、あるいは七十九パーセントの壁
僕は主のいないカウンターの奥、自分の指定席に腰を下ろし、冷え切ったように感じる空気のなかで、ただじっと扉が開く音を待った。
八代はさっきから、「早くPvP行こうぜ」と急かすけど、今の僕にはベルさんのこと以外、これっぽっちも考える余裕なんてなかった。
やがて、バタン! と大きな音を立て、ドアが閉まる。
「じゃ、俺一人で行くわ」
そう言い残して、八代はどこかの戦場に出かけていった。
この「空っぽの店」の中で、八代と一緒にいるときよりも、こうして一人で彼女の「不在」を噛み締めているときの方が、今の僕にはずっと落ち着く場所になっていたんだ。
『私にとっての生命維持は、あっちで点滴バッグを眺めることじゃなくて、ここで「引き金」を引き続けることだから』
いつだったかベルさんが言った、言葉。
それを思い出し、ベルさんは何か大きな『嘘』を抱えてることに気が付く。それに今のベルさんは『引き金』なんて、全然引けてなんか、いないじゃないか……。
明日こそ、ベルさんは来る。
それだけを信じて僕はログアウトした。
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11月下旬
オンライン授業の画面越しに、先生が「学院ポータルにも書いてあるが、22日は点灯式、感謝祭礼拝は28日だ。安藤以外は全員参加すること。特に礼拝は遅刻しないように」と話しているのが聞こえる。
学校では『授業』をさぼることよりも、『礼拝』を欠席することの方が重罪だ。通常三日の停学が、五日間に跳ね上がるほどだ。僕は「オンライン授業」を免罪符に、免除してもらってるけど。
画面の向こう側の教室はどこか浮足立っている。けれど、ヘッドセットを外した僕の部屋は、不気味なほど静まり返っていた。
八代からは、礼拝堂に設置された大きなアドベントツリーの写真が何枚も届く。
『点灯式、22日の17時からだ。当日はログイン遅れるけど、また3番ゲートに行くからな』
八代との関係は、またPvPをするようにはなったけど、まだ少しギクシャクしている。
キラキラと輝き始めた現実の光が、今の僕には網膜を焼くノイズにしか感じられなかった。
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ベルさんのいない『BELL’S AMMO』。
僕は一人で『合鍵』を使い、無人のカウンターを眺めてから、逃げるように戦場へ向かう。
彼女がいつ戻ってきてもいいように。
僕が彼女の誇りである『真実』であり続けるために。
廃工場地帯や、廃都市で八代と合流しPvPを繰り返しても、それがことごとく一発で相手をポリゴン化しても、僕はどこか上の空で、ただ機械的に標的を捉え、射抜いていった。
ただ、シンクロ率だけは上昇し続けた。
64.5……68.2……72.0……やがて79.0――。
上がる数値とは裏腹に、僕の心はどんどん冷えていく。




