第50話 孤独の予感、あるいは解錠と静寂
11月中旬
自宅そばにある小学校のイチョウの葉が、黄色く色づき始める。
グレセット礼拝堂に、大きなアドベントツリーが置かれ、下旬には点灯式の準備が始まる頃だ。
アドベントツリーを見た八代が、『もうこんな時期だぜー』とはしゃいだメッセージと共に、スマホに写真を送ってくる。
まだなんの飾り付けもされていないし、点灯式はたしか22日ごろだというのに、気が早いな。
僕にはその浮き足立った様子が、どこか遠い世界の出来事のように感じられた。
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オンライン授業と、宿題を終え、いつものように一人で先に『BELL’S AMMO』に向かう。
重い鉄の扉は鍵がかかって閉ざされていたけれど、チェーンは外れている。
ベルさん、いないのかな?
たしか前に、ユニットのメンバーだけは鍵を解除できるようになっているって聞いていたから、ドアノブに手をかける。
あ、開いた。
恐る恐る扉を開けると、自動で照明が点灯する。けれど、カウンターの奥にいるはずの、ガラス細工のような瞳をした彼女はいなかった。
ベルさん、今日はログインしてないんだ。体調悪いのかな……あ、そうか。もしかして、女の子特有の、あれ……だ。
たしかちょうど一ヶ月前にお休みしていたはずだ。そう思うと、少しだけ安心できた。
17時になり、後からやってきた八代と3番ゲートへと向かった。
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けれど、翌日も店の扉には鍵がかかっていた。
「ベルさーん、今日はいますよねー?」
不安に駆られ、外からは聞こえないことがわかり切っているのに、声に出して聞いてみる。解錠権限を持っているのに、昨日のようにドアノブにすら手をかけることができなかった。
僕はどうしたらいいんだろう――1時間くらい、扉の前で呆然としていただろうか。
八代に肩をたたかれ、ハッとする。
「おい、カツミ。どうしたんだ? 中に入ろうぜ。メンバーは解錠権限、持ってるだろ?」
八代はズカズカと、まるで自分の家か僕の家に入るようにドアノブに手をかけ、重い扉を開いた。
――カチリ、と。
無機質な解錠音が、僕の心臓を直接叩いたような気がした。
勢いよく開け放たれた扉の向こう。
システムが反応して、いつものように店内の灯りがパッと点る。
……けれど。
やっぱり、そこには誰もいなかった。
主のいないカウンター。冷え切った空気。
八代が破った静寂の後に、それよりもさらに重い静寂が、僕たちを飲み込んでいった。




