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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第47話 七百九十七メートルの真実、あるいはフィルターの嘘

 ベルさんはそう言うと、カウンターの脇に置いてあった外征時にいつも被っている、バイザー付きのヘルメットを手に取った。


 ……嘘だ。

 あの日、僕が初めて小型トラックほどの大きさのミドル級を倒した時。ベルさんはバイザーをカチリと下げ、「内蔵ディスプレイ」の数値を見ていた――でも、違う。彼女には最初から、デバイスの補助なんて必要なかったんだ。


 このヘルメットを被る動作さえ、彼女にとっては「普通のスナイパー」を演じるための、せめてものカモフラージュに過ぎないんだ。


 重い鉄の扉を開けて踏み出したセントラルシティの街並みは、相変わらず不気味なほど眩しい『午後二時』の陽光に焼き尽くされていた。

 石畳を叩くベルさんのブーツの音が、いつもより鋭く響く。


「いい、カツミちゃん。この眩しい『午後二時』――今のうちに、あなたが『偶然』をより確実に掴めるよう、感覚を研ぎ澄ませなさい」


 今のうちに……? この世界は永遠に午後二時で、太陽(そら)が暗くなることなんて、ないのに。

 その言葉に胸の奥がチリチリと焼けるような感じがしたけど、僕はそれを頭の隅に追いやった。今は『偶然』を確実にしないと……。


「ターゲットは、3番ゲートの東エリア。そこに巣食うハイエナどもに、本物のスナイパーが誰なのか、教えてあげましょ」


 3番ゲート、その先は廃都市だ。八代が撃たれ一人で初めて対人戦をした場所だ。そしてシンクロ率も58パーセントくらいから、62にまで上がった、僕にとってはゲンのいい場所だ。


「カツミちゃんは、私の『絶対座標』が指し示すポイントを、一ミリの迷いもなく射抜くのよ」

 脳が白熱する――店で聞いたその言葉を、彼女は今、あえて僕の隣で実行しようとしている。


 前回の十階建よりさらに東に向かった、五階建てビルの屋上。ここは上からも下からも狙われやすそうな高さだ。


 ベルさんは迷いのない動作で熱を持ったコンクリートの上、僕の左隣に横たわると、バイザーを下げた。


 その奥にある瞳は、ディスプレイの数値なんて見ていない。もっと深い、システムの中の『座標』を直接捉えているのだと、今の僕にはわかっている。


「……797メートル、方位角331。そこに『必然』の死が置かれているわ。……視えるわね?」


 797、331――。

 バイザーの内側で、ベルさんはディスプレイの数値なんて見ていない。

 脳への負荷を代償に、システムから直接引きずり出した標的の『絶対的な位置』だけを、彼女はささやいている。


 僕は眼を細め、彼女の指示したその一点へと、意識を研ぎ澄ませた。

 スコープの向こう側、陽炎が揺れる廃ビルの隙間。そこには何も見えない。

 けれど、ベルさんの声が、僕の脳内にその標的の存在を鮮明に焼き付けていく。


「……信じなさい。あなたの『偶然』を、私の『必然』に重ねるのよ」

 システムの計算上、この距離での「命中率」は極めて低いはずだ。


 風、重力、空気抵抗。本来ならそれらを計算し、着弾点を補正しなければならない。

 でも、今の僕にそんな小細工は必要なかった。


 ベルさんの『絶対座標把握アブソリュート・シンクロニシティ』が導き出した『真実』。

 そこに僕の『真実の結果の可視化センス・シンクロニシティ』をぶつける。


 ただそれだけで、この世界の物理法則(システムの嘘)は、僕の弾道の前にひれ伏す。

 僕は、彼女の視界をなぞるだけの「一発の弾丸」へと化し、倍率を10倍にしたスコープにとらえた標的(ターゲット)に向ける。


 上に8.3ミル、左に1.7ミルずらした先に正解がある――僕は、静かに引き金を絞った。咆哮と共に飛び出した弾丸は、約1.5秒後に標的(プレイヤー)をポリゴン化させた。


「やりました!」

 僕はベルさんの反応を見ようとスコープから眼を離し、左を向く――ベルさんの反応がない。


「ベルさん! 大丈夫ですか!?」

「あ、うん。大丈夫。797メートルを一発で。完璧だったわね」

 ベルさんの声は、どことなく上の空のようだった。脳が白熱してしまったんだろうか? それとも、僕の戦果に魅入っていたんだろうか?


「ベルさん、もしかして白熱……」

「あー、大丈夫よ。このヘルメットのシールド、すこーし改造して、その成果もチェックしてたの」

「え!?」

 僕はその意味がわからなかった。


「カツミちゃんと外征するために、『座標流入』を一定割合カットする『フィルター』を入れてみたの。おかげで、今日はあんまり脳は白熱しなかったわ」


「フィルターですか……?」

 やっぱりよくわからない。

「ヘルメットに、『店』ほどの効果はないけど、同じシールドのプログラム――世界のノイズを、私の脳が耐えられるレベルまで遮断するロジックを、組み込んでみたの。そしたら大成功よ」


「え、店と同じ?」

「そうよ。驚いた?」

 なるほど、店の中が『安全』だから、今まであまり外には出なかったんだ。


「なら……僕を助けてくれたあの時、ベルさんはヘルメットもバイザーも付けていませんでしたよね? なんの『フィルター』もなしに……」


 僕は、あの時ベルさんは本当に命懸けだったことに気がついた。


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