表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/66

第43話 静寂の支配、あるいは二人だけの店

 11月1日


 朝、目が覚めても、昨夜見た掲示板の文字、『赤い眼の幽霊』が頭に焼き付いて離れなかった。


 鏡の前に立ち、榛色(はしばみいろ)の瞳をじっと見つめる。そこには、赤なんて微塵も混じっていない。

 幽霊? そんなことはない。ただの弱々しい不登校の元男子(TS娘)の姿が映っているだけだ。


 でもこれ、僕のことだ。一番最初は3番ゲート付近。そこでは確かにあの日、5人を屠ったビルがある。それ以外でもエイトとテツさんとでPvPをしている。

 レアスキル『センス・シンクロニシティ』を発動したときの『赤い眼』――書かれているのは、間違いなく僕のことだ。


 それから毎日、掲示板の【拡散】スレッドをチェックせずにはいられなかった。

 スレッドは日に日に伸びていき、やがてその内容は「恐怖」からか、具体的な目撃情報だけではなく、『あの(赤眼)が見えたら、死神に見つかったと思え』の書き込みが目立つようになっていった。


 11月8日


 『星』か。

 僕が放つ一弾が、プレイヤーにとっては逃げ場のない「凶兆」として刻まれているんだ。

 そう自覚するたびに僕は、自分が「あっち側(普通のプレイヤー)」から遠ざかっていくのを感じ、授業が終わると同時に逃げるようにVRギアへ手を伸ばした。


 そこに、『今日も遅れる』と八代からの短いメッセージ。

 昨日までは、『研修旅行の予習で遅れる』って書いてあったのに……。


 そうだよな、来週になれば八代は研修旅行に出かけてしまい、テツさんは予備校だ。


 みんな、自分の『現実』を生きているんだ。


 僕は一足先にベルさんの店に向かう。


 +++


 いつものように、ベルさんは「おかえり、カツミちゃん」と迎えてくれる。


「ただいま、ベルさん」

 と、僕はもはや指定席になっている、二つあるうちの手前のスツールによじ登るようにして腰を掛ける。


 そして何も言わずとも目の前に差し出されたコーヒーを啜る。

僕の居場所はここにしかないんだ。


 しばらくベルさんと雑談をしていると、今日のログインがいつもより早かったせいか、この店に通い始めて一ヶ月、初めて「お客さん」たちと遭遇した。


 僕の座っているのは店の奥だ。入ってきたお客さんたちの顔はよく見えなかったけど、ひどく興奮した声が丸聞こえだった。


 その内容を聞いて僕は愕然とした。

「聞いたか? 最近、北西エリアに、赤眼の幽霊が出るらしいぜ」

「ああ、『死神』だろ? 噂じゃポンチョで顔はわからないが、金髪で背が低い女の子って聞いたことあるぜ」

「そう、そいつだ。目があった瞬間にリスポーン送りにされるって。誰かが掲示板に書いてたぜ。『赤眼(ルビー)凶星(アステリズム)』ってな。あのエリアには近づかない方が身のためだ」

「ああ、そうだな」


 カップを持つ僕の指先が、わずかに震える。

 掲示板の書き込みが、プレイヤーたちの生々しい「恐怖」を帯びた言葉となって、僕の耳を突き刺した。


 何やら買い込み、しばらくベルさんと世間話をしていたお客さんたちは、「また来るぜ」と言い残して去っていった。


 客が帰り、静かになった店内。ベルさんが口をひらく。

「有名人ね、カツミちゃん」

 皮肉っぽく、けれど、どこか包み込むような優しさを含んだ声だった。


「僕、あんな風に怖がられてるなんて、思わなかった……」

 僕は震える手でカップを置く。

「ただ必死に撃ってるだけなのに。あんな、幽霊だなんて」

 ベルさんが、僕の前の空になったカップを下げながら、ふと真面目な顔をした。


「怖がられるのは、それだけあなたの弾道に『嘘』がない証拠よ。システムとの何らかのシンクロ率が50%を超えた狙撃手には、世界が少しだけ違って見えるようになるの。それはギフトだけど、同時に呪いでもあるのよ」

「呪い……?」

 僕は自分の指先を見つめた。

 掲示板で囁かれる不吉な名前。


「そう。普通の人たちには見えない『真実』が見える代償に、あなたは彼らの輪の中から一歩、外へ踏み出してしまった。エイトくんには、まだ話していないんでしょう? その、見え方の違いを」


 図星だった。僕が『赤眼』のとき、その内側で僕が何を感じ、何を見ているのかまでは話せていない。

 八代が「研修旅行」という眩しい現実を生きている間、僕は一人、薄暗い店の奥で『呪い』を噛み締めている。


 その時、カウンターに置かれたベルさんのホロ・タブレットに、短い着信音が響いた。


「あ、エイトくんからだわ」

 画面に表示されたメッセージを、彼女は静かに読み上げる。

『すみません、ベルさん。学校の用事が長引いて、今日はログインできそうにありません。カツミに「ゴメン」と伝えてください。明日、埋め合わせするからって』


 ……なんだ。やっぱり、今日は来ないんだ。

 八代のいない、ガランとした隣のスツール。


 店内で、ベルさんの視線だけが、逃げ場のない僕の心を静かに射抜いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ