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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第42話 赤い眼の噂、あるいは十月の加速

 10月17日


 今日も17時にログインし、ベルさんの店に着くとテツさんから連絡が入っていた。

「テツ、模試の結果が悪かったそうよー」

 ベルさんが見せてくれたメッセージには、受験生の悲痛な叫びが綴られていた。


『模試の結果、C判定。日曜は絶対にログインして暴れさせてもらいます。それまでにエイトとカツミにハントの目星つけとくように言っておいてください!』

 受験か……僕たちはまだ中三だし、そのまま系列大学に行くつもりだからあんまり実感が湧かない。……って、その前に高校に進学できなきゃ話にならないけど。


 そういえば先週の土曜日から顔見てない。

「なんだかテツさんって年上なのに、ベルさんに敬語使うなんて律儀というか……」

 八代はちょっと呆れ顔だった。


「ま、これも私の人徳のなせる技かしらねー」

 これ、絶対違うやつだ。ベルさんから借金してるからなんて、口が裂けても言えなかった。


「それで、今日の二人のスケジュールは?」

「はい、足を伸ばして南側の『瓦礫の街』まで行って、今日から対人戦(PvP)を試してみようと思ってます」


「えっ、聞いてないよー」

「今、俺が決めたんだ。昨日の結果見たろ? 58パーセントだっけか? それなら十分いける。瓦礫の間から狙撃を繰り返せば、あっという間にシンクロ率も上がるってもんだろ?」


 八代の提案をベルさんがしばらく考えたのち、代案を出してきた。

「んーそれなら、東の『廃都市(ゴーストタウン)』なんてどう? 『死神』にはうってつけな場所じゃない?」

「いいですねー! よし、行こうぜカツミ!」

「そうだね。まだPvPはやってないから、今度こそ本当の『死神』になってやる」


 意気込む僕たちに、ベルさんがアドバイスをしてくれる。

「ならできるだけ高いビルの屋上に陣取りなさい。

 相手からも丸見えの状態で、狙撃する。()()()()()()()()()()()の状態で仕留めるの。そうすれば、かなりシンクロ率も跳ね上がるはずよ」

「はい!」


「あと、できるだけ遠距離、前にも言ったと思うけど、システムの有効射程500メートル以上、実銃の800メートル近くを狙って。これはエイト、あなたの索敵にかかってるわよ」

「はい!」


「じゃ、二人とも行ってらっしゃいな」

「「はい!!」」


 背後にベルさんの穏やかな声を聞きながら、僕たちは本物の『死神』になるべく、廃都市のある3番ゲートへと向かった。


 3番ゲートの先、廃都市(ゴーストタウン)は自然が文明を飲み込んでいく、静かな緑の王国だった。


 目星をつけたビルの、崩落した階段やむき出しの鉄骨を登り、屋上に陣取った僕たちの初陣は、想定外の形で幕を開けた。


 ターン――。


「しまっ……! 狙撃(スナイプ)だ、カツミ逃げろ!」

 八代が叫んだ瞬間、乾いた銃声がビルに反響し、僕の目の前で彼の身体がポリゴンの光に弾けた。スポッターを失い、屋上に取り残された僕の視界が、一気に「赤」く染まる。


 とっさに巨大なエアコンの台座、コンクリートの影に潜み弾丸が飛んできた方向にスコープを向ける。


 500メートル? 600メートルか? いったいどこなんだ? 


 初めて仲間を撃たれたこと、そしてこれから自分がアバターとはいえ、『人間(プレイヤー)』を撃つんだ。……逃げない。ここで引き金を引かなきゃ、僕じゃない。


 ――見つけた。方位角261、距離384メートル。

 アサルトライフルでも当てられる距離だ。

 僕たちがゲートを潜り、しばらく直進して見つけたビルの屋上で、武装(銃を実体化)したのを見ていた奴が、真後ろからエイトを狙撃したんだ。


 僕は落ち着いて初弾を薬室(チャンバー)に送り込み、敵を狙う――。


 M24の咆哮と共に、敵はスコープの中でポリゴンの光と化す。


 そこからの一時間は、記憶が断片的だった。

 八代がリスポーンしてベルさんの店に戻っている間、僕は一人で索敵と狙撃を繰り返した。


 赤眼が捉える『真実』だけを撃ち抜く。

 スコープ越しに目が合った敵が、何が起きたか理解できずに消えていく――ポリゴン化した『敵』を見るたびに、確実に暗い喜びを感じている自分に気づき、それがまた、僕の指先を加速させた。


 装填していた弾丸がなくなり、マガジンを替えるのも忘れてベルさんの店にようやく戻った時、八代は呆然として僕を迎えた。


「……お前、あれから一人で5人も倒したのか? スポッターの俺なしで?」


 報告を聞いたベルさんは、満足げに、けれどどこか危ういものを見るような目で僕を見つめた。


「シンクロ率、62.1パーセント。おめでとう、カツミちゃん。あなたはもう、立派な『死神』よ」


 その日から、僕の中の何かが完全に切り替わった。


 10月20日


 模試の結果に荒れ狂うテツさんが合流すると、僕たちの『ハント』はさらに加速した。


「おいエイト、カツミのやつ、マジで一人で5人撃ち抜いたのか? 嘘だろ?」

「嘘じゃねぇよ。俺がリスポーンして店に戻っている間に、廃都市の悪霊みたいになってたんだからな」


 二人が呆れたように話している横で、僕はただ、スコープの先の『真実』だけを見つめていた。


 その日のPvPでも、テツさんの突撃を援護しながら、僕は淡々と引き金を引き続けた。

 装填していた弾丸がなくなるたびに、僕は機械的に次弾を送り込む。


 ポリゴンが散るたびに、胸の奥で疼くような暗い喜び。それが僕の指先をさらに加速させ、気づけば僕たちのユニット『不協和音』は、無視できない存在になりつつあったようだ――。


 10月31日


 10月最後の夜。世間ではハロウィンだけど、学校はプロテスタントだし、ましてや不登校中の僕には全然関係ない行事だ。 


 自室のPCで、何気なく『TRIGGER LOCK ONLINE』の、掲示板スレッドを開いた。

 気になるタイトルが眼に飛び込んできた――『【拡散】「赤い眼の幽霊」に遭遇した奴いる?』


 画面をスクロールする指が、かすかに震える。そして、「幽霊」だけじゃなく、「死神」を見たとも書いてある。

 知らない間に、僕は「幽霊」や「死神」として、この世界の広範囲で語られ始めていたんだ。


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