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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第41話 五百十二メートルの真実

「なあ、最高の『真実』ってなんだ?」

「え? あー、内緒だよー」

「なんだよー!」


 そんな馬鹿話をしながら、7番ゲートを目指す。

 セントラルシティの南側は、今日初めて来る場所だ。ゲートの内側はいつもどおりの喧騒に包まれていたけれど、ゲートを抜けた瞬間、肌を刺すような緊張感を覚えた。


 目の前に広がっていたのは、10番ゲートのコンテナヤードとは比較にならないほど深い、静寂が広がる廃工場地帯だった。

 空を突くような巨大な煙突は折れ曲がり、錆びついた鉄骨の骨組みや、大きな機械がまるで巨大な獣の死骸のように転がっている。


 50メートル先の倉庫だか工場のゲートが大きく開き、内部が見える。崩れた天井の隙間から『午後二時』の光が、幾筋もの光の帯となって差し込んでいた。


「……ここ、10番よりずっと空気が重いね」

「ああ。7番ゲートは通称『スナイパーの墓場』だ。遮蔽物が多い分、一瞬の油断で位置を特定される」

「うわなにそれ、八代のスパルタ教育?」


 僕は緊張をほぐすように冗談を言ってみるけど、八代は真顔でゴーグルを調整し、偵察ドロイドのノイズを拾いはじめた。


「偵察ドロイドの別名は『ラプラス・アイ』って呼ばれてるんだとさ」

「ラプラス・アイ?」

「ああ、俺も聞きかじりだけど、『ラプラスの悪魔』ってのから取ったんだと。『ある瞬間の全物質の力学的状態を知れば、未来をすべて計算できる』ってやつらしい。ドロイドの動きから誰かがつけた……って書いてあったぜ」

「へぇ、物知りなんだねー」

 一瞬、八代がすごいインテリに思えたけど、茶化すのはやめた。なぜなら――。


「……いたぞ、あそこだ。ターゲット捕捉。方位角260、崩れた3号ボイラーの煙突横。ラプラス・アイ一機」

 八代が瓦礫の影から、静かに指をさす。

「距離500、くらい……」


 僕はすぐさまM24を実体化させ、ゆっくりと薬室に弾丸を送り込む。

 

 ジャッ――カチッ――ガチッ。

 フルカスタムされたボルトの操作音は、昨日までとは違う硬質な響きを立てた。


「うん、方位角258、距離512メートル――」

「おいカツミ、あいつの回避機動を考えたら、ここからじゃシステム上の命中率は10パーセントもねぇぞ。もっと詰めねぇか?」


 命中率10パーセント。それが、システムが僕に見せている『嘘』の数字なんだね。

 僕は答えず、瓦礫に身を沈める。

 512メートル先の空中に浮かぶ、小さな銀色をした金属の球体。


『センス・シンクロニシティ』が僕の視界を赤く染め上げる。

 ドロイドが「逃げる場所」が、まるでそこにあるのが当然のように、赤い残像として浮かび上がった。


 見えた。そこが、真実だ。

 そこにレティクルのセンターを合わせ、僕はゆっくりと引き金を引く。


 ――ドォォォォンッ!!


 M24の咆哮。0.8秒後、標的はポリゴンの光に包まれ消失した。

 アシスト・マーカーを使わず、予測線も出さない僕の一撃は、システムに回避を演算する隙すら与えなかった。


 八代がゴーグル越しに消失を確認し、息をのむ。

「やったな! カツミ! って、お前、眼が……」

 僕はゆっくりと、地べたから八代を見上げる。

 その眼は不気味なほど、赤く見えたはずだ。


 ひとこと言ったきり、八代はしばらく黙っていた。スコープ越しではなく、初めて僕の『赤眼』を目の当たりにしたんだから無理もないよ。


「眼、真っ赤に光ってたな」


 その一言に僕は息をのむ。

 八代、僕のことが怖いのかな……?


 現実でもゲームでも僕は、「普通」から遠ざかっている。

 実際、現実で女子化した僕のことを、八代はどう思っているのか怖くて聞くことはできなかった。


 けれど、次に八代の口から出た言葉は、違っていたんだ。

「カツミ! ついにやったな! これで明日からでもPvPできるんじゃねえか? それに、シンクロ率だっけ? めっちゃ上がってるんじゃないかな!」


「よかった。僕、八代を怖がらせちゃったかと思ってた」

「あに言ってるんだよ! ここはゲームの中だぜ? いっくらお前の眼が赤かろうが金色だろうが、いまさら驚きゃしねぇよ……ま、ちょっとはビビったけどな!」


 そう言って八代は、僕の方をバシバシ力任せに叩いた。

「痛いってば!」

「これぐらい我慢しろって。早く帰って、ベルさんに報告しなくちゃな!」


 八代のぶっきらぼうな優しさが、僕の中に澱んでいた不安、少なくともゲームの中だけは振り払ってくれた。


 ベルさんの店に戻り、今日の成果報告とシンクロ率をチェックする。

「ふーん」と鼻を鳴らして、ベルさんは当然でしょ? という顔をする。


「シンクロ率58.4パーセントね。

 ま、500メートルなら余裕だから、今度はもっと遠くを狙わなくちゃね」

 期待していた賞賛の代わりに返ってきたのは、ちょっと塩対応な言葉だった。


 たしかに一撃で仕留められたけど、師匠(ベルさん)が言うのも、もっともだな。500メートルなら、アシスト・マーカー使えば当たり前に当たる距離なんだから。


 八代が横で「厳しいっすなー、ベルさん!」と苦笑いしているのを横目に、僕は自分のステータス画面に浮かぶ58.4%という数字を、ちょっとだけ誇りに思った。


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