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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第38話 五十パーセントの残像、あるいはサプレッサーの価値

『BELL’S AMMO』の重い鉄扉が開くと同時、八代の情けない泣き言が店内に響き渡った。


「痛ってぇーーー! マジでこれ、生身でも絶対アザになってるって!!」

「いや、それ絶対ないから! それに爆音がどうのとか言って偉そうにしてたくせに」

 八代は二人きりのときはぼやくことなんてしないのに、ベルさんの前だとなんかぼやくんだよな。

 まぁ八代も僕も一人っ子だから、ベルさんを「お姉さん」と思っているのは仕方ないけど……。


 八代は右肩を大げさに押さえ、顔を歪めながらカウンターに突っ伏す。


「おかえりなさい。あら、エイトくん。そんなに派手に撃たれたの?」

 ベルさんがルーペを跳ね上げ、悪戯っぽく目を細める。


「聞いてくれよベルさん! カツミのやつ、あの真っ白な霧の中で当ててきたんだぜ? 容赦なさすぎだろ!」

「ひどいな、『カツミが撃てるのは一発だけ』って決めたのはエイトじゃないか。だから僕は……」


 僕は苦笑いしながら、目の前の空間をスワイプしシステムメニューを表示させた。八代の愚痴をよそに、自分のステータス――シンクロ率を確認する。

 そこには、目を疑うような数字が並んでいた。


「あ……上がってる」


『Sniper: A-Katsumi』

 Rare Skill:Sense Synchronicity(Synchronization Rate 51.1%)


 つい昨日、30パーセント台だったシンクロ率が、50を超えていた。これは確率的に二回に一回はレアスキルを発動するということなんだろうか……?


 あの「赤と黒」の世界。砂利を噛む八代の気配――本物の「質量」を捉えたあの瞬間、僕の脳は確かにこの世界と深く繋がったんだ。

 自分の頭が少しずつ、自分じゃないものに書き換えられていくような、不思議な感覚がした。


「……へぇ、50を超えたの。やっぱりね」


 ベルさんがいつの間にか僕の背後に立ち、画面を覗き込んでいた。

「主観がシステムを上回る瞬間。カツミちゃん、あなた自分が思っているよりずっと『()()()()』の人間かもしれないわね……」

「こっち側……?」


 その言葉の意味を問い返そうとした時、復活した八代が身を乗り出してきた。


「ま、合格祝いだ。次はサプレッサーでも買ってやるか? 今の爆音じゃ、一発撃った瞬間にハイエナどもが群がってくるぜ」


 ベルさんはそれ以上「こっち側」については語らず、八代の言葉に反応する。


「サプレッサー? ……そうね、20から40ゴールドで買えるけど、今のカツミちゃんには、まだ早いかしら」

 ベルさんはカウンターの奥で、49.2という数字が浮かぶ僕のメニュー画面をちらりと見て、悪戯っぽく笑った。


「その爆音はね、敵への『警告』であり、自分への『覚悟』よ。一発で居場所がバレる恐怖の中で、確実に仕留める精神力を養うの。サプレッサーなんて、それこそ本物の死神たちが集まるP()v()P()()()まで取っておきましょ?」


「PvP大会……死神、か」

 ベルさんの言葉に、僕はあの日、砂海の監獄で味わった「絶望的な暗転」を思い出していた。


 僕たちを襲撃した『ハウンド・ドッグス』のザック。彼もそんな死神なんだろうか。

 スコープを覗いても、あの「赤と黒」の世界は戻ってこず、ただ一方的に組み伏せられた屈辱。


 あの時、僕の中に眠っていたはずのこの『力』が、もし今日のように目覚めていたら……。

 51.1パーセントという数字は、僕をあの「死神」のような男の領域に、少しだけ近づけてくれたんだろうか。


「じゃあ、ベルさん。サプレッサーを買わないなら、この49.2ゴールド、何に使うのが一番いいんでしょう」


「そうね。今は『足し算』よりも、徹底的な『すり合わせ』に投資しましょ?」


「すり合わせ……?」

「ええ。51.1パーセントまでシンクロ率が上がった今のあなたなら、銃の微かな『違和感』がノイズになるはずよ。49.2ゴールドあるなら、そのM24を一度完全にバラして、あなたの指の長さ、引き金を引く癖、頬の位置に合わせて、ミリ単位のフルカスタム・チューニングを施しましょう」


「ベルさんが、僕専用に……?」


「ええ。あなたとM24の境界線を、もっと曖昧にするの。これで、誰にも真似できないあなただけの『一撃』が完成するわ」


 僕は自分のM24を、託すようにカウンターへ置いた。

 新しいパーツを付けるより、今ある自分の一部――鬼軍曹に『お前の新しい腕だ』って支給された――を研ぎ澄ます。そのストイックな提案が、今の僕にはひどくしっくりきたんだ。


「ベルさんの手で、僕の『腕』のフルカスタム。お願いします」


「はい、毎度あり。ふふ、いい返事ね。じゃあ、預かるわよ。あと、カツミちゃんの身体データとログもね――明日の17時までには仕上げておくわ」

 ベルさんは満足げに頷くと、僕の身体データを自分のホロ・タブレットに転送し、慣れた手つきで僕のM24を分解し始めた。


 隣では、八代が「へぇ、フルカスタムかよ。贅沢な新人だな」とニヤニヤしながら、自分のM16A4の弾倉を詰め直している。


 永遠の『午後二時』の光。

 店内に響く、金属が擦れ合う微かな音と、八代の軽口。


 シンクロ率51.1パーセント。その数字の先にある景色は、「赤と黒」のモノクロームの世界なんだろうか。それとも……。僕は早く見てみたかった。


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