第33話 喧騒のセントラルシティ、あるいは馴染みの路地裏へ
10月13日
今日はこのゲームを始めてから、初の日曜日。
ぐっすり寝てしまい、起きたら11時を回っていた。
授業の疲れ……はないから八代が言うように、ほんとに脳が疲れてるんだろうな。
今日は母さんは仕事が入っているから、朝食兼昼食を一人でもそもそと食べる。休日出勤なのか、父さんもいない。
約束の時間まで、まだ4、5時間はある。
このままダラダラ過ごそうか、それとも一人でセントラルシティをぶらつこうか……。
でも、一人だとまた変な奴ら――特にザックにまた絡まれたら嫌だしな……と思って悩んでいたけど、やっぱりあの世界に戻りたい。
なら、ポンチョが必要だよねと、ホーム画面で装備が買えるか見てみる。
強化繊維でベルさんが作ってくれた『アバターが熱で溶けちゃう』んじゃない、普通のタクティカル・スナイパーポンチョが25ゴールドだった。これなら、持っているゴールドで買える!
残り49.2ゴールドになるけどいいやと、早速ポチる。
これを装備して、一人でセントラルシティをぶらつくことにした――。
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『System Login. Identity confirmed: A-Katsumi. Welcome back to Central City』
聞き慣れたシステム音声に迎えられ、ホワイトアウトが消えると僕はセントラルシティの噴水前広場に立つ。
早速、現実世界で購入したポンチョを装備する。これでよし。金髪も隠れたし、これなら目立たずに済むはずだと自分に言い聞かせる。
一人でうろつくには、見知ったベルさんの店のある路地以外はちょっと怖いので、噴水周りだけを散策する。
そこには、いろんな喧騒が溢れている――。
物売りの声、何かの人だかりから時々上がる歓声、ジョッキとジョッキがカチンとぶつかり合う音。どこからか聞こえてくるケンカの声。
噴水広場の周辺には屋台があったり、フリーマーケットみたいに道端にシートを広げて雑多なもの……なんだかわからない、それこそ八代のドロップ品の「獣の牙」やらを売っていたりする。
当然実用品もあるけど、目を引くのはガラクタ同然の物を売っている露店だ。
使い古されたマガジンや、出所不明のライフルスコープ、果ては『前回ミッション余り品』と書いてある、薬莢がくたびれた7.62x51mm NATO弾が、「0.9ゴールド」でバラ売りされている。
少しでも装備を安く揃えようとするプレイヤーたちが、そんな「掘り出し物」を手に入れようと、あちこちの店で物色している。
当然プレイヤー以外にも、NPCも働いたりうろついたりしている。
セントラルシティの清掃や、店番をしている彼らは、あまりに人間らしく振る舞っている。ビールのような飲み物を売りつけながら、プレイヤーに「いい銃を持ってるな」と声をかけている。
いくらポンチョで風貌を隠していても、この低身長じゃ「大人」には見られないんだろう。ビールをジョッキで煽る男たちも、僕のことは視界の端に映る子供としか思っていないようだ。
おかげで酒を売りつけられる心配もないし、今の僕には好都合だった。
セントラルシティ内は、武器が使用できないから、拳銃をジャグリングのように扱う大道芸人が、おひねりならぬ「投げ銭」をせびっていたりする。
掲示板のようなホログラムがあり、近寄って見てみる。
そこにはシステムから『賞金首』に指定された『黒タグ』の顔ぶれや、「高難易度ミッション」のリストまである。
その周りには、ザックのような「獲物」を探すギラついた視線のプレイヤーたちがたむろしている。
もしかしてベルさんは、ここで一昨日のミッションを見つけてきたのかな? でもそこには「ラージ級」「ミドル級の群れ」くらいしかなく、砂海の暴君のようなネームドのクエストはなかった。
ベルさんのことを思い出したら、急にベルさんに会いたくなった。
日曜日だから、書き入れ時で混んでるんじゃないかなとは思ったけど、気がつけば僕の足は見知った路地裏に向かっていた。
表通りの喧騒が、細い路地に入った途端に嘘のように遠のいていく。
日曜日の昼下がり。ベルさんの店なら、きっと新しい武器を求めるプレイヤーでごった返しているんだろうな――。
そう思って、僕は重い鉄の扉を少しだけ遠慮がちに押し開けた。
「あれ……?」
客の姿は一人もなかった。
店内に響くのは、金属が擦れる小さな音と、どこか落ち着くオイルの匂いだけ。
カウンターの奥では、ベルさんがヘッドルーペを装着し、バラバラに分解された銃を前に一人で黙々と作業をしていた。
僕に気づいたベルさんが、顔を上げる。
「おや……その金色の頭を隠した不審者は、もしかしてカツミちゃんかしら」
店を覗いたときに、ポンチョのフードが少しずれたようだ。
ルーペを跳ね上げ、悪戯っぽく微笑む彼女の顔を見た瞬間、なぜだか、無性に会えてよかったと思った。




