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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第31話 奪われた物の真実と、一分の死線

 重い鉄のドアを開ける。


「お帰り、カツミちゃん」

「あ、はい、ただいまベルさん」

 なんだか本当に自分の「家」に帰ってきたみたいだ。


「よっ!」

 先に着いていた八代は、大人ぶってブラックコーヒーを我慢しながら啜っている。そんなに無理しなくてもな、とは思うけど。


 僕の前にミルクと砂糖たっぷりのコーヒー。ベルさんがカウンター越しに出してくれる。

「いただきまーす」


 一口啜り、店内を見回す。定位置の店の隅でミニミを抱えているテツさんの姿が見えない。

「あれ? テツさんは?」

「あー、明日『模試』があるからお休みするって、チャット入ってたわよ。律儀よねー」

 と、ベルさんが呆れ気味に言う。


「あー、そういえば、浪人生(じゅけんせい)だって言ってたよね」

「ってことは、ベルさんより年上なのにあの扱いかよ。酷くね?」と八代が茶化す。

「いいの。私がこの『不協和音(オーケストラ)』の指揮者(リーダー)なんだから」

「へいへい」


「で、ちょっとカツミちゃんのスキルの発動条件と、あの『重装核』の関係を調べたの」

「「…………!!」」

 二人でゴクリと唾を飲み込む。


「いい、カツミちゃん。あの『重装核』はね、暴君がこの世界で『暴君』でいられるための心臓部……いわば、『システムの嘘』を物理的に固めた結晶よ。

 正確に言うなら、『物理法則を歪める結晶』とでも言うのかしら。

 本来なら、あなたの『赤眼(レアスキル)』をこの世界に定着させて、いつでも発動させるための最高級のプラグインになるはずだった。

 それをあのハイエナ共、こともあろうに横取りして……。

 あなたの未来を、ただの(ゴールド)に換えようとしてるのよ」

「「…………」」


『システムの嘘』、『物理法則を歪める結晶』と言われても全然ピンとこないや。

 八代も同じくベルさんが何を言っているのかわからない顔をしている。


「……あの、それって……すっごく高価なもの、ってことですか?」

 僕が恐る恐る尋ねると、ベルさんは呆れたようにため息をついた。


「私の説明、ちゃんと聞いてた? 値段のことじゃなくって、カツミちゃんのレアスキルをいつでも発動させるために必要な物なの! そりゃ結構高い値段で売れるでしょうけど、『普通』のプレイヤーにはただの装飾品、というか石っころね」

「「!!」」


「ってことは、あれがないと僕はレアスキルを発動できない……ってことですか!?」

「じゃ、すぐに奴らをみつけて、こっちからPvPを仕掛けて『重装核』を取り戻せば……」


「それは無理ね」

「「えー!」」

「まず、ドロップ品を奪えるのは、アイテムをドロップした時だけ。

 いったん相手の物になったものは奪えないの。

 カツミちゃんの『強化繊維』で作ったポンチョも、エイトの『獣の牙』も奪われてないでしょ?」

「「確かに……」」


「それと、今の私たちじゃ、アイツらには勝てない。私が十人いれば別だけど……」

「……」

「だめかー」


 ベルさんは悔しそうに顔を歪めたけど、すぐに僕を射抜くような鋭い視線に戻した。


「今のカツミちゃんのシンクロ率は、まだ12%。

 システムが『嘘』を隠しきれなくなった瞬間に、たまたま視線が重なっただけの偶然よ。

 だから、自分でも発動条件がつかめないの」


 偶然? なら、あの時聞こえた『承認』っていう声は一体何だったんだろう……。


「……どうすれば、またあの眼になれるんですか?」


「条件は二つ。一つは、あなたの脳がシステム側の演算速度と同期すること。

 そしてもう一つは……『絶対に外さない』という強い主観が、客観的な確率を上回ることよ。

 本来は『重装核』がその補助をしてくれるはずだったけど……無いものを嘆いても始まらないわ」


 ベルさんはカウンターを飛び越え、僕の目の前で足を止めた。

 その手には、店の商品の黒いゴーグル状のアイマスクが握られている。


「調べている時間なんて無いわ。今すぐ、あなたの脳を『赤眼』に強制同期させる。カツミちゃん、それを着けなさい」

「えっ……それ、目隠しですか?」

「そう。12%の偶然を100%の必然に変えるには、視界という『嘘の情報』を一度捨てるしかないの。暗闇の中で、システムのノイズだけを聴きなさい。

 エイト! あなたは今から1分間、あらゆる方向からカツミちゃんに石を投げ続けなさい。一発でも当たったら、カツミちゃんの今日の夕飯は抜きよ!」


「ええっ!? 石ぃー? 俺のせいでカツミがメシ抜き!? 責任重大すぎるだろ!」

「僕、スナイパーなんですけど!! それにログアウトしたら現実で――」

「しのごの言わない! スナイパーだからこそ、視覚を超えなきゃならないのよ。さあ、始めるわよ!」


「エイト、本気で投げないで! 僕、お腹空いてるんだからっ!」



 店の裏にある、『試射場』の重い扉が開く。


 僕がレアスキルを自在に操れるようになるための、地獄の1分間が始まろうとしていた。


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