第3話 克美とカツミ
八代に教えてもらいながら、ゲームのホーム画面でアカウントを作成する。
「じゃ、アカウント(プレイヤーネーム)を決めよう。ちなみに俺は、『EIGHT-A』」
「なら……『A-Katsumi』」
「あんだよ、そのままじゃん。ま、いっか。パスワード、忘れんなよ」
「うん」
無事ログインに成功すると、アバターの作成画面が表示される。
「最初にアバターを作るんだけど、本人の生体情報を利用するんだ。PCのカメラか他のデバイス、スマホから自分に似たアバターが作れるんだよ」
そう言いながら、自分のアバターを見せてくれる。
八代を少しだけゴツくした風貌で、黒とグレーの迷彩服を着ていた。
「これはアーバン・タクティカル・スーツ。都会的な迷彩で俺の長身を活かしたプロ仕様なんだぜ」
男の時でも165センチだった僕から見れば、172センチという彼の身長とそのシルエットは、確かに自慢したくなるほど様になっていた。
「おおー、まさに前衛って感じだね!」
「そうさ、俺はお前に後衛をやってもらって、敵を排除していくんだ……っても、まだチュートリアルも済ませてないから、前衛か後衛かも決まってないけどな」
「そっかー。じゃ僕のアバターはスマホで……あ、『PCのカメラでの撮影を推奨』って書いてある……」
「あ、そうそう。全身を撮らないとアバターにならないんだよ。悪い、全身スキャンが必要だって言うの、忘れてた」
少し申し訳なさそうに付け加える。
「えっ、全身撮るの? ちょっと待って、心の準備が……仕方ないな――」
僕はPCの前で画面の指示に従い、全身が映るように立ち上がる。
するとカメラの横にあるLEDが青白く発光し、スキャンが始まる。
ものの数秒で画面に表示されたのは――。
『スキャン完了:身長148cm、体重39kg。骨格整合率 99.8%』
画面の中には簡素なスポーツブラにショーツ姿で、無防備に直立する僕のアバターが映し出されていた。
「うわ! 身長4センチも縮んで、体重なんて7キロも減ってる! 胸だって……この身体で、ゲームするのーーー!?」
画面を覗き込んで、真剣な顔でつぶやく八代。
「いや、スナイパーだったらその『薄さ』は神体型だぞ」
「まだスナイパーじゃないし、薄いって何!? それに下着だけなんだからあんまり見ないでよ!」
僕は八代が覗き込まないよう、画面に覆い被さる。
『薄さ』や下着姿よりも、出来上がったアバターの『顔』が気になり、拡大して恐る恐る覗き込む。
画面の中には、自分そっくりな黒髪ロングヘアに榛色の瞳、色白の美少女が映し出されていた。
女子化してから鏡を見るのを避けていたせいで『僕』であるはずなのに、どこか知らない他人のように思えてしまう『顔』だ。
「うーん、あんまりいまの顔と変わらないなぁ……」
「そうだな……じゃ、肌や髪の毛、眼の色をカスタマイズしてみれば?」
「へーそんなこともできるんだ。じゃ、せっかくゲーム内だから……肌はもっと抜けるような白い肌。髪は金髪にしちゃお。眼も髪に合わせて碧眼に――あはは、まるっきり外国人の女の子になっちゃったよ」
「おーかわいい、可愛い! あーでも、あんまり可愛いと他のプレイヤーに狙われそうだな」
「じゃ、そんときは八代が守ってよ」
「え、あ、うん。そうだな……」
心なしか八代の顔は赤くなっているようだった。
次は戦闘服を決めなきゃなと、促される。
「うーん、何がいいかわかんないよ。八代、決めて」
「じゃ汎用性の高い、多色構成迷彩服にしよう。後衛は、活動する環境に合わせないといけない。これは万能迷彩だからね」
「え、待ってよ。僕、まだ後衛になれるなんて決まってないんだからさ」
「いいから、いいから。それじゃあ俺とお揃いにするか?」
「うーん、それもなんか、やだ。カップルみたいじゃん」
たしかに僕が元男子だと知らないプレイヤーから見れば、長身の彼氏に守られている彼女に見える。
その状況を想像したのか、八代の顔は今度こそ赤くなっていく。
「ね、八代。なんか想像してない?」
からかってやろうと言った僕の言葉を無視して、
「あ、そうだ! 金髪だと目立つから……」と、照れ隠しのように提案してきた。
「フード付きでマガジンポーチが装備されているタクティカル・スナイパーポンチョがいいんじゃないか?」
「ふーん。ま、これなら身体のラインも出にくいよね」
「か、身体のライン? お前はそんなに……いや、なんでもない」
僕が貧乳なのを気にしているのを思い出したのか、途中でやめる。
「んー何かなー?」
僕はわざとTシャツの胸元を覗いてみせる。
「えーい、うるさい……まあ、そのポンチョ姿なら、どこに潜んでいてもバレないだろうからな。俺が囮の間に、特等席から狙い撃てよ」
「わかった、わかった。じゃ、これも……あれ? ロックがかかってて選べない」
アイコンをタップしても、画面には『条件未達成(CONDITION UNMET)』の赤い文字が出るだけだった。
「あ! 初期装備は基本の戦闘服一着しか選択できないんだった! ごめん、他の装備はドロップ素材かゴールドで手に入れるしかないんだった!」
「もー! 期待させないでよ。……じゃあ、この迷彩服でいいよ。これで完成っと!」
確定ボタンをクリックすると、『初期設定完了(INITIAL SETUP COMPLETE)』の文字が瞳に焼き付いた。




