第2話 トリガーロック・オンライン
僕が女子化したことを知る生徒、それは八代 梓だ。
同じマンションの隣に住んでいる。
いまは別のクラスだけど、中学1年で同じクラスになったのをきっかけに友だちになった。放課後は僕の家に上がり込んでくるようなやつなんだ。
僕が女子化してから二、三日経った日の放課後、八代はいつものように家にやって来た。
ショックでまだ寝込んでいた頃だ。
「おーい、安藤〜」
「……」
「引きこもってないで、俺とゲームしようぜー」
母さんから僕が女子化したことを聞いたはずなのに、それについては一切触れず、普段どおりに接してくれた。
「…………」
「そっかー、じゃまた来るなー」
数日後、また家にやってくる
「VRMMOゲームで、すっげーのがあるんだ。知ってるか?」
「う〜ん、いまはまだいい……」
そんなやりとりを続け――。
昨日からオンライン授業を受け始め、前を向く気になった僕は八代の案に乗ってみることにしたんだ。
オンライン授業が終わり、出された宿題を早めに終わらせる。
仕事が入っていない母さんと、砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲みながらリビングでくつろいでいると――。
「あ、おばさんこんにちはー。安藤、一式持ってきたぞー」
いつもより早い時間に、八代がやってきた。
「やっちゃん、いらっしゃい」
「そのやっちゃんての、やめてよ。来年は高校生なんだから」
「克美にとって八代くんは、お兄ちゃんみたいなもんだから、いいじゃない」
母さんには、放課後に八代とゲームをすると話してある。
――お兄ちゃん、か。
僕は苦笑いしながら、八代を迎える。
「ずいぶん早いね」
「今週掃除当番だったけど代わってもらってさ、ブッチで帰宅したんだよ」
自分のノートPCと、円形のヘッドセット型VRギアを二つ、僕に見せる。
「VRMMOのシューティングゲーム。これ、持ってないだろ?」
「あ、うん。ありがと。僕も買わなきゃね」
「いいって。俺がやりたいゲームに付き合ってもらうんだから、しばらく貸しとくよ」
「え、いいの?」
「ああ」
じゃ、始めようぜーと、僕の部屋に向かう。
「まずは――」
八代は僕のPCに、ゲームをダウンロードする。
ダウンロード画面には、ゲーム名『TRIGGER LOCK ONLINE』と表示されている。
「トリガーロック……オンライン……?」
「うん。ゲームコントローラーのスイッチをロックさせて、素早い射撃や反応速度を向上させることを『トリガーロック』っていうんだけど、そこから名前を取ってるみたい……だよ」
「みたい?」
「うん。実は俺も昨日ダウンロードしてアバター作ったばかりでさ、一人きりだから操作練習も済ませてないんだ。お前と二人でやりたかったからさ……」
「え、なんか、ごめん」
「いいって、いいって。課金すれば強くなれるけど、基本無課金でやろう。でも、まともな銃や弾薬を揃えるにはドロップを狙うか、相当気合を入れて稼がないと強くなれない。ま、そのあたりは普通のソシャゲと同じだ」
「じゃ、初期状態だと最弱だよねー」
「ま、そりゃそうだけど、戦闘支援UIもあるし、仲間――お前がいれば、二人で無双するのも夢じゃないさ」
一人でなんでもできるけれど、仲間がいれば強くなれる――八代はそういうやつなんだ。
いつか二人で姓名判断をしたんだけど、八代は『一人でなんでもこなしてしまうタイプで、勉強も仕事も問題なく出来てしまいます。仲間とうまく合えばもっと成功する事が出来るでしょう』って書いてあったんだ。
一方僕の方は、『仕事がうまくいってればプライベートがダメ、逆にプライベートが良ければ仕事がダメと常に全てがうまくいく事は非常に稀』と書いてあって、散々だった。
まるで女子化して引きこもり――はしてないけれど、オンライン授業を受けているのが、もう当たり前のような感じを受けていたんだ。
だから、この身体――これもある意味アバターみたいなもんだけど、生身だ――が、VR空間でアバターを得たときにどう感じるか、ちょっと楽しみだったんだ。




