第29話 不確定な赤眼、あるいは拒絶されたステータス
ベルさんはホロ・タブレットの操作を止め、カウンター越しに僕を真っ直ぐに見据える。その瞳の奥が、これまでにないほど真剣な色を帯びていた。
「カツミちゃん。あなた、自分がどうなってたか覚えてる?」
「え? いえ、必死だったから、あんまり。……でも急に静かになり、視界から色が消えて『赤と黒』の単彩の世界になりました。そして暴君の喉の奥に炸裂弾が吸い込まれる未来が見えたんです」
視界が真っ赤に染まり、世界のすべてが自分の指先に繋がったような、あの全能感だけが網膜の裏に焼き付いている。
「だからあのとき、目が赤かったのか?」
さっき言葉を遮られたことを、八代が思い出したようにつぶやく。
「そうね。あなた、共時性を覚醒させたわね。それも、ただの発動じゃないわ。システム管理者の直接介入……『承認』を伴う覚醒よ」
ベルさんがホロ・タブレットをスワイプし、僕のステータス画面を空中に展開した。
「見て、あなたのスキル。消えない特異点が刻まれてるわ。……システムが、あなたを正式な『例外』として認めた証拠よ」
正式な……例外? そこには、今まで見たこともない輝きを放つスキル名が躍っていた。
『Sniper: A-Katsumi』
Rare Skill:Sense Synchronicity(Synchronization Rate 12%)
「レアスキル? センス・シンクロニシティ? 同調率っていうんですか? が、12%」
「そう。まだほんの入り口よ。でも、あなたはその扉を開けただけなの。まだまだ不安定だけどね。
あなたの行動は、システムの計算を狂わせた。カツミちゃん。あなたのその『赤眼』は、『この世界の嘘』を見抜く眼よ」
「『世界の嘘』を見抜く眼……」
「いい? その眼で『嘘』を見抜いて、その先にあるあなただけの真実をつかみ取りなさい」
ベルさんはそこまで言うと、いつものようにニッと笑った。
「ま、詳しい説明は後! さあ、テツ。何割かあいつらに持ってかれたけど、あなたの借金がどれだけ減ったか、戦果確認といきましょうか!」
その言葉で、店内の空気は一気に「商売モード」へと切り替わった。
『Heavy-Gunner: Tetsu』
Rank(階級):8 → 11(+3)
LP(生命力・耐久力):250 → 320 (+70)
AP(攻撃力):180 → 220 (+40)
DP(防御力):100 → 140 (+40)
DEX(器用さ):8 → 10 (+2)
所持金:5.4G
残弾:5.56mmリンク弾 × 10発(200発制限中190発消費)
「残弾、わずか10発。
所持金、5.4ゴールド。戦闘前所持金がゼロ。暴君獲得分は100ゴールドだけど、略奪分が……3割だから、マイナス30ゴールド。そして弾代と維持費精算がマイナス64.6ゴールドね」
「うあああ! ベルさん、そんな殺生な! 借金返済どころか、弾丸1マガジンも買えないっすよ……!」
そっか、獲得したゴールドは400だったけど4人で山分けなんだ。
それにしてもPvPの略奪って所持してるゴールドの3割分なんだ。ハイエナするのもわかるけど、人としてどうなんだろう……。正面から申し込む対決ならまだしも、いきなり撃ってきて。しかも4対6だよ。
テツさん、パラメーターは上がったけど略奪されちゃって、弾を買う金すら怪しいな。
「次はエイトくんね」
『Attacker: EIGHT-A』
Rank:6 → 9(+3)
LP:180 → 240 (+60)
AP:100 → 130 (+30)
DP:60 → 90 (+30)
DEX:15 → 18 (+3)
所持金: 70G
残弾: 5.56mmNATO弾 × 120発
「残弾120。買い足ししててよかったわね。
所持金、70ゴールド。戦闘前所持金がゼロ。暴君獲得分は100ゴールドだけど、略奪分は同じくマイナス30ゴールド。
至近距離で暴君のヘイトを買い続けたから、耐久力が大幅成長したわね!」
「けど、略奪されなかったらグレネードランチャー手に入ったんだよなー」
八代はまだ、グレネードランチャーを諦めていないらしい。
「そしてカツミちゃん」
『Sniper: A-Katsumi』
Rank:18 → 21(+3)
LP:60 → 75 (+15)
AP:620 → 710 (+90)
DP:10 → 15 (+5)
DEX:45 → 52 (+7)
所持金:74.2G
残弾: 7.62mm炸裂弾 × 96発
「残弾96――魂の一発だったわね!
シンクロ率はまだ12%だけど、レアスキルも獲得したから鍛錬あるのみね。
そして圧倒的なAPの伸び。アノマリー(特異点)としての覚醒が数値に現れ始めている。システムにも計算できない狙撃が数値を押し上げているみたいね。
DEXも50の大台」
「え!? 元々持っていた所持金も略奪対象なんだ……106ゴールドが74.2に……」
「そう、この世界は厳しいのよ。
略奪された31.8ゴールドは惜しいけど、勉強代と考えて。あなたまだまだ伸びるわよ!」
「鍛錬――発動条件がまだわからなくて……」
「そうよね。ちょっと調べておくわね」
そう言っているベルさんのステータスは、相変わらず『Permission Denied(閲覧権限なし)』のままだった。




