第24話 不協和音の四重奏、あるいは歪んだ銃身の再教育
セントラルシティのベルさんの店に帰ってくなり、開口一番ベルさんが説教を始める。
「いい? テツ。よーく聞いて」
テツさんにM249を実体化させ、彼女はそれをカウンターにドサリと置いた。
「弾丸一発は、あなたの血の一滴だと思って。分速800発ってことは、1分間で八百回、自分の命を垂れ流してるのと同じなのよ」
「は、はい……。肝に銘じます……」
カウンター前には、僕と八代の椅子しかないから、190センチ近い大男のテツさんは直立不動でベルさんの話を聞いている。
八代が「ま、俺の盾に隠れて一発ずつ撃てばいいんじゃね?」とコーヒーを啜り、能天気に笑っている。
テツさんにはコーヒーは出されていない。
ベルさんは構わず、慣れた手つきでM249を分解し始めた。
「ライフリングの歪みは矯正したけど、このバレル、もうボロボロ……」
しばらくM249と格闘を始める――。
やがて修理が終わったのか、ホロ・タブレットを叩いてニッと笑う。
あーこれまた悪い予感がする。
「はい、これ。今回の特急修理代と、M249専用の5.56ミリベルト給弾、200連マガジン3セット分の見積もりよ」
差し出されたホロ・タブレットの請求額を見て、テツさんが「ひえぇっ!」と悲鳴を上げた。浪人生の小遣いでは到底払えない、見たこともない桁の数字だろう。
「払えないわよね? だから言ったでしょ、あなたは『質』だって」
ベルさんはカウンターのM249をコンコンと指先で叩いた。
「5.56ミリ弾は1発0.1ゴールド。100円玉をバラまいてるのと同じ。あなたのその指がトリガーを1分引きっぱなしにするだけで、80ゴールド――つまり8万円をドブに捨ててるのと同じなのよ」
「は、8万……一分で、8万円……っ!?」
テツさんが白目を剥いて卒倒しかける。浪人生にとって、1分間で8万円を消費するなど、もはや国家予算を動かしているような恐怖だ。
「エイトは3点バーストで一発を大事にしてるわ。カツミちゃんに至っては、1発1ゴールド――1000円もする7.62ミリ弾の重みを背負って撃ってるの。あなたのその無駄撃ち、浪人生の小遣いで一生かかっても払いきれないわよ?」
えーっと、僕は『訳あり』炸裂弾で、1発100円なんですけどーとは、口が裂けても言えなかった。
「納得したわね? じゃ、みんなデバイス出して――」
ベルさんがニヤリと笑い、僕たち全員にデバイスの接続を命じる。
『――ユニット共有設定、アップデート開始――完了しました』
無機質なシステム音声がそう告げる。
完了すると、僕のゴーグルに新しく四人分のステータスが展開される。
「じゃ、テツはー」とステータスを読み上げる。
『Heavy-Gunner: Tetsu』
Rank(階級):8
LP(生命力・耐久力):250
AP(攻撃力):180
DP(防御力):100
DEX(器用さ):8
「うーん、重装兵らしい高い体力。撲殺で鍛えられたタフさかしらね。あーDEXは壊滅的ね。あなた、狙って撃つという概念がないでしょ? 弾さえあれば最強だけど、弾がないとただの『動く肉壁』ね!」
うわー、相変わらず辛辣な感想!
当人のテツさんは、ステータスに見向きもせずに、「1分で8万……1分で8万……」とつぶやいている。
「……じゃ、お次はエイトくんね」
『Attacker: EIGHT-A』
Rank:6
LP:180
AP:100
DP:60
DEX:15
「命中精度が上がって、無駄がなくなったわね。それよりも、『カツミちゃんを守る盾』としての自覚がDPとLPに色濃く出てきたって感じかしらー。もう、あなたたち付き合っちゃいなさいよ」
「「えーそんなんじゃー」」
八代と僕は、あわてて否定する。
「あらそうなの? じゃ、最後にカツミちゃん」
『Sniper: A-Katsumi』
Rank:18
LP:60
AP:620
DP:10
DEX:45
「LPが大幅アップ! 一気に6もよ! ラージ級を倒したおかげね! APは……150アップ! 狙撃技術の向上とRank補正が効いてるわね。うん、これは〜私・の・お・か・げ・! DEXも弾道学の実践で、精密操作が飛躍的に向上したわね。全体的に、ラージ級初討伐ボーナスで、スナイパーとしての格が一段上がったって感じかしら」
「で、ベルさんは……?」
一番下の『Supporter: Bell』の欄を見て、僕は目を見開いた。
ベルさんは僕の観測手に徹してくれるんだ。
けれど、そこには数値もゲージも存在しなかった。
漆黒のノイズが走る枠の中に、ただ一言、『Permission Denied(閲覧権限なし)』という冷たいシステムメッセージが明滅している。
「ベルさんだけ、ステータスが見えないんですけどー」八代が抗議する。
「あー、それ? 私のデータは『店主権限』でプロテクトかけてるから。あなたたちが私を追い越すまでは、お預けよ」
ベルさんは事も無げに言い放ち、悪戯っぽくウィンクした。
「おいおい、ベルさん。ステータス非表示かよ。これじゃ本当に人間かどうかも怪しいぜ」
八代が茶化すと、ベルさんは「失礼ね。乙女のステータスを覗こうなんて、百年早いわよ」
僕は、この『見えない』師匠の本当のステータスがどれほどなのか、想像するだけで背筋が震えるのを感じた。
「それから――」と、自分のデバイスを操作し、『Ammo:M249 SAW 200/200』を全員が見えるようにした。
「……あ」
思わず声が出た。テツさんの残弾数を示す数字が、血のように赤く点滅している。
「これでカツミちゃんもエイトも、このバカがいつ『棍棒』を振り回し始めるかリアルタイムで分かるようになったわ」
「うう、監視されてるみたいで落ち着かないっす……」
さっきまでぶつぶつと、つぶやいていたテツさんが正気に返ったようだ。
「落ち着かなくて結構! さあ、この莫大な借金を返してもらうわよ。ちょうどいい依頼が入ってるの」
ベルさんは、僕と八代、そして新入りのテツさんを交互に見てニッと笑った。
「四人揃った初仕事。ターゲットはー」
隣で「よし、俺が守ってやるからな、浪人生!」とテツさんの肩を叩く八代。
「な、なんだよお前。生意気だな」
自分の巨大な銃を愛おしそうに撫でていたテツさんが言い返す。
不揃いもいいところだけど、この四人ならきっと上手くいく。
「……と言いたいところだけど、もうリアルだと20時すぎちゃってるわね。今日はここまでにして、明日の17時、作戦会議よ。遅れないでねー」
「あ、はい!」
「了解っす」
「はい!」
明日から、僕の「終わらない午後」は、もっと騒がしく、もっと刺激的なものになるはずだ。
現実の夜へと戻るため、僕はログアウトを選択した――。




