第23話 空っぽの弾倉、あるいは咆哮する重装兵
「それじゃあ、ミドル級でも狩りながら店に戻りましょうか? 今日はエイトくん、戦果ゼロだもんねぇ」
「え、当たり前じゃん! だって今日はカツミの腕を見るって、遠距離からラージ級倒したから! 俺、囮にすらなれずに終わったろ?」
八代がぼやく。
そんな彼に、ベルさんは悪戯っぽく笑いながら歩み寄った。
「まぁそんなにしょげないで。キミの耐久力と防御力なら、アシスト・マーカーをうまく使えばミドル級を山ほど倒せるはずよ? ほら、盾の角度をアシストに任せてみて。一歩も引かずに群れを蹂躙する快感、教えてあげるわ」
ベルさんは『僕の師匠』の厳しい顔から、少しだけユニットの仲間を鼓舞する頼もしいリーダーの顔を見せた。
「ま、カツミを守る練習だと思えば、悪くないか」
その横顔を見て、僕は僕で次の獲物をスコープの中に探し始めた。
しばらく探しても、今日は獲物が見つからず結局店に戻ることに――。
「同じ経路で帰るよりは、別のルートなら獲物に遭遇するかも……そうね、草原でも歩く?」
ベルさんの提案で、草原エリアに向かう。
「あ、いたいた。ちょうどスモール級の群れ! ほら、エイト出番よ!」
「まかしときー!」
八代は単騎で突っ込んでいく。アシスト・マーカーを起動させたのか、盾を自在に扱う姿がスコープ越しに見え、M16Aから3点バーストの射撃音が聞こえてくる。
タタタン――タタタンッ、タタタ――
キャウン!
キャイン!
キャン――
スモール級の悲鳴が数頭分聞こえてくる。
んーやっと八代も複数倒せたみたいだ。
その音に混じって、遠くからカチッ、カチッという虚しい金属音と、野太い怒号が聞こえてくる。
僕は八代にゴーグルに内蔵されているデバイスで話しかけてみる。
「エイト、何匹か倒せたみたいでよかったね! ちょっと見てほしいんだけど、前方で誰かがモンスター相手に、棒かなんかで戦ってるみたいなんだ。けど、こっちからはちょうど丘の下になってて見えないんだよ」
『あ? ああ、3匹な。スモールだけど。で、誰かがいるって? ちょっと見てくるわ』
僕と八代が会話していたのを聞いていたベルさんが、隣でバイザーの集音感度を上げて答える。
「棒……? この乾いた連続音。間違いなくM249 SAWの分速800発の給弾機構が空転してる音ね。」
「分速800発の給弾機構?」
僕は何のことかわからないので、おうむ返しに疑問を投げかける。
そこに八代から報告が入る。
『おい、棒じゃねえぞ! 機関銃をフルスイングしてスモール級と戦ってるやつがいるぞ!』
「「えー!?」」
八代の信じられない報告に、僕とベルさんは顔を見合わせた。
『うわ、ひでー! 銃身をバット代わりにして撲殺してる!』
デバイス越しに野太い絶叫が混じる――『弾がねぇぇ! 敵が途切れねぇから戦闘状態が解けねぇ! ログアウトもできねぇぇ!』
丘を駆け下りると、銃を棍棒のように振り回し、モンスターを殴り飛ばしている大柄な男がいた。
「あらー、銃がかわいそう……エイト、助太刀してあげて。カツミちゃんじゃ近すぎるから」
『了解!』
数分後、スモール級を5匹倒したエイトと、2匹を撲殺した大男がへたり込んでいた。
「俺はテツ」と、大男が自己紹介を始める。
「助かりました。受験のストレス解消に始めたんですが、弾を買う金もなくてこのザマなんです」
あーなんかこの人、いきなりリアルの話までし始めちゃった。悪い人じゃなさそうだけど。
僕の感想と異なり、ベルさんはなんかお冠だ。
「あなた、これじゃミニミが泣いてるわよ! もっと銃を大事にしなさい。ただでさえ圧倒的な火力なのに、燃費が悪すぎて即座に弾切れ起こすのなんて分かりきってるでしょ!」
「はい。でも俺、このでかいの大好きなんです」
よく見ると、彼の持っている銃も僕のM24と変わらないくらい長い。しかもゴツい。
「んーまあいいわ。ちょっと見せて」
ベルさんがテツの銃を奪い取るようにして、中を覗き込んで絶句する。
「……絶望的ね。ライフリングが歪んでるわ。これ、店に持ち込んで専用の治具を使わないと直らないわよ」
「ひえぇ、やっぱり……。でも俺、修理代なんて今持ってなくて……」
「なあ、ベルさん。俺この人いい人だと思う」
「あ、僕もそんな気がします」
「……そーお?」
やがてベルさんはいいことを思いついたと言うように、ニヤリと笑う。
「あなた自身を『質』に取るわ。店で直してあげる代わりに、修理代を稼ぐまで私たちのユニットでこき使ってあげる」
「えっ、いいんですか!? 浪人生の俺を拾ってくれるなんて!」
「勘違いしないで。この子が二度と棍棒にされないように、私が徹底的に管理してあげるだけよ。さあ、店へ戻るわよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
テツさんは繰り返し言いながら、ミニミ愛を熱く語り始める。
「愛してるならもっと大事にしなさい!」
ベルさんはその熱弁を適当にあしらっていたが、最後には一喝していた。
僕は、また一人ベルさんのペースに巻き込まれた人が増えたな……と思いながら、M24をストレージに戻した。




