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黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


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第22話 死神の隠れ家、あるいは六百メートルの境界

「モンスターの(クラス)を説明してもらった時に、ラージ級はAP1500から3000オーバーって言ってましたよね?」

「そうだ! 俺なんて80のままだぞ。いくらカツミが470に上がったからって」


「そうよ。でも、昨日のミドル級で確信したの。コアを射抜けたのはラッキーだったけど、普通それだけじゃあんな消失なんてしないの。爆発して、しばらくはその場に留まってから、ポリゴンへと分解するってのが通常なの」

「そうなんですか?」


「そうなの。だから、今のカツミちゃんのAPと炸裂弾、それに『あの変な消失のさせ方』を再現できればラージ級も夢じゃない!」

「「えー」」


「しのごの言わないでさっさとラージ級、探しに行くわよ!」

「はーい」

「へいへい……俺じゃラージ級なんて無理だしー」


「あら、そんなことないわよ? エイトが囮になってモンスターの気を引いてるうちに、カツミちゃんが倒す。いい案でしょ?」

「えー!? なんか俺の立場なさすぎー」


「まぁそれが盾の役割ってものじゃない?」

「ま、そりゃそうだけど……カツミを守る盾でありたいとは思うけどさー」

「それでこそ、ナイトね!」

「俺はエイトだっつーの!」


 八代はぶつぶつ言いながらも、(シールド)のグリップを強く握り直した。

 その背中を見ながら、僕も決意する。

 八代が守ってくれるなら……僕は、一発も外せない。


 太陽はどこにあるかも定かではないのに、足元の影だけは『永遠の午後二時』の角度に焼きついている。

 僕らはその影を追いかけるように、黙々と進むこと約30分――前方に砂煙が上がる。


 モンスターだ。

 地響きと共に現れる巨体。

 八代が「……マジかよ、デカすぎだろ」と息をのみ、盾を構える。


 すかさず僕は地面に伏せ、ゴーグルの数値を静かに読み上げる。

「方位角35……NE、距離603。ベルさん、指示を!」

 倍率を10倍にしたスコープの中に映る、山のような巨体。


 ベルさんの静かな指示。

「カツミちゃん、システムがM24の有効射程を500メートルと設定しているこの世界(ゲーム内)じゃ、600はアシスト・マーカーは使えないわよ? ここが狙撃手(スナイパー)の腕の見せ所ね。じゃ、いい? 風は左から微風……狙点(エイムポイント)を1.2ミル左へ……6.5上へずらして。これで叩き込みなさい!」


 銃口をずらすと、レティクルの中心(クロスヘア)は何もない虚空を狙っている。モンスターの姿は、スコープの右下の隅に辛うじて映っているだけだ。

 けど、師匠の言うことだ。僕は信じる。


 僕は、その『見えない正解』を信じて、『凪』を待つ――。


 ドォォォォンッ!

 重い反動が肩を突く。


 虚空へと吸い込まれた弾丸は、左からの風と重力に従って、緩やかな放物線を描いて――。


 約1.13秒後、600メートル先の山のような巨体が、音もなく跳ねた。


「……着弾(ヒット)! 炸裂弾、反応あり! 効いてるわよ!」

 ベルさんの弾んだ声が聞こえたけど、次の指示が飛ぶ。

「そのままで第二射を!」


 シャコンッ!

 キンッ!

 そのまますぐにボルトを前方へ叩き込み、二発目を薬室に送り込む。

 ガッ、チャ……カチリ。

 ボルトアクション特有の乾いた衝撃。


 ――『凪』は続いてる。

 僕は、自分の心臓の鼓動が止まる錯覚すら覚える静寂の中で、そのまま引き金を絞る。


 僕のスコープ内には、依然として何の補正も着弾予測も表示されていない。

 システムから見れば、僕が撃ったのはターゲットから大きく外れた、ただの「(くう)」だ。

 だけど、その一発が600メートル先の重力と風を切り裂き、砂塵を抜けてラージ級の胸部に吸い込まれた。


 不意に、耳鳴りのような電子音が脳裏をかすめる。

『――Warning. Anomalous Event Detected』(警告。特異事象を検知)


 僕のゴーグルには表示されない、サーバーの深淵。

 システムのアシストを一切介さず、数値上の「空射」が最高難易度の急所命中へと書き換えられたその瞬間。


 論理では説明できない『計算不能な不規則性(アノマリー)(特異点)』として、その狙撃は「観測者」の記録に刻まれた。


 ドォォォォンッ!

 再び重い反動が肩を突く――。


「っし! 倒したわね!」

「はい!」

 僕もスコープ越しに、山のような巨体が砂煙を上げて崩れ落ちるのを確認した。

 システムが提示した「不可能」の境界線を、師匠の言葉と、僕の一発が飛び越えたんだ。

 今度は爆発はしたみたいだけれど、消失せずにポリゴンへと分解するまでその骸を晒している。


 コアを外したのか、あるいは威力が足りなかったんだろうな。

 ……でも、いくらベルさんの炸裂弾があるとはいえ、AP470の僕がラージ級を倒せるなんて思わなかった。


「一射目と全く同じ場所に二射目を叩き込んだわね。600メートルであの精度……カツミちゃん、あなた本当にスナイパーは初めてなの?」

「え、あ、はい。ベルさんの指示どおりに撃っただけです。なんなら実銃もこの数日で、初めてなんですけど……」

 僕はさっき聞こえた電子音のことなんて忘れて、ベルさんの賞賛に少し照れながら答えた。


 ベルさんはバイザーを跳ね上げ、僕の肩を力強く叩いた。

「指示どおりに撃てるのが才能なのよ。……ま、今回は『普通』に倒せたみたいだけど、十分すぎる戦果だわ。APなんてただの数字だって、証明しちゃったわね。おめでとう、初ラージ級狩り成功よ!」


「俺、囮になる暇もなく終わったぞ」

 八代が盾を背負い直し、呆れたような、でもどこか誇らしげな顔で笑う。


「ま、でもこれで決まったな。ミドルだろうがPvPだろうが、俺はカツミを守る盾に徹することにするわ。お前が外さないなら、俺の背中は安泰だしな」

「エイト……うん、ありがとう」


 僕らは崩れ落ちたラージ級の残骸――光の粒子となって消えていくポリゴンの輝きを見つめながら、勝利の余韻に浸った。


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