第21話 鉄灰色のポンチョ、あるいは死神の正装
戦闘地帯に入り、ポンチョを装備瞬間から148センチの身体が「背景」と同化し始めていたらしい。
「……カツミ? おい、どこ行った?」
ほんの数メートル先を歩いていたはずの僕の姿が見えなくなったのか、八代が足を止めてキョロキョロと辺りを見回している。
僕は岩陰に身を隠し、膝を抱えてじっとしていたんだ。
ベルさんが仕立ててくれたポンチョは荒野の強い陽光を半分ほど吸い込み、残りの光を周囲の岩肌の色と複雑に反射させ、僕の輪郭を曖昧に描き変えていた。
「ここだよー」
僕が声をかけると、八代は「うわっ!?」と飛び上がった。
「……マジかよ。岩だと思ってたのが、お前だったのか」
ベルさんが自慢げに解説し始める。
「むふー、驚いた? ポンチョなら身体のラインを消せるのは言うまでもないけれど、強化繊維の特性を調べたのよ。
そしたら二つ、すごい特性が見つかったのよね。
まずは光吸収機能があるの。周囲の光をだいたい50%から60%吸い込んで、照り返しを防ぐの。
岩場や建物の陰に入ると、周囲の暗がりに完全に溶け込むのよね」
「あー、だからさっき消えたように見えたんだ!」
「え、そうなの?」
僕はまだいまいちピンとこない。
「そして二つ目。赤外線遮断ができちゃうの。
アバターでも体温がある設定でしょ? この世界。つまり、その体温を外に漏らさない特殊な繊維だったの。
わたしのバイザーでも検知できないくらいのね」
「へー」
「それって、ベルさんと同じようなバイザー……熱源センサーを持ってるプレイヤーとか、モンスターに見つからないってことですか?」
僕はやっと強化繊維の特性を活かした、このポンチョの能力を理解した。
「そうそう。いやーそんな性質持ってるなんて、いろいろ調べてみてよかったわー」
ベルさんは、やっぱり凄いや。
僕には完全には理解できていないけど、この繊維が僕の体温をじっとりと飲み込んでいくような感覚だけはした。
「ただ気をつけなきゃならないのは、熱を閉じ込めるってことね。装備しているプレイヤーにも熱が返ってくるのよね。……カツミちゃんの今の耐久力なら、持って合計10分ってところかしら。それ以上は身体がオーバーヒートして自滅しちゃうわよ?」
「どおりで少し暑く感じたんだ……。でもオーバーヒートって、車じゃ……それなら、LP上げなきゃいけないですね」
「そゆこと」
「あ、ベルさん、これ。ゴーグルに変なカウント表示『08:09:03』ってのが出てますけど……」
「あー、それね。あなたの今のLPから逆算した『茹で上がるまでの残り時間』よ。ゼロになったら、アバターが熱で溶けちゃうから気をつけてね?」
「と、溶けちゃう!?」
「正確には、熱蓄積による稼働限界になっちゃうってことね。ま、一旦ログアウトすれば大丈夫だけどー」
それを聞いて溶けちゃやばいと、ポンチョを脱いで装備解除。じっとりと身体にまとわりついていた熱が、世界の乾いた風にさらわれていく。
「これなら大丈夫ですよね。それに、別に今は装備していなくても、モンスター狩りならベルさんのバイザーで先に見つけて先制攻撃すればいいし」
「そうね」
「それにまだPvPできるランクじゃないから、隠れる必要もなし! ましてや、PvP大会に出るわけじゃないからな」
八代もおんなじ意見だ。
いつもだったらすぐに答えてくれるベルさんなのに、そんな僕たちの様子を見て、そして何かを確信したように口を開く。
「PvPね……あながちまだ無理と決まったわけじゃないと思うわよ? でもまず、ラージ級を倒してから判断しましょ」
僕らはそのいきなりの提案に驚いた。
「「ラ、ラージ級?」」




