第18話 不揃いなステータス、一つの正解
ベルさんが今度は太い鎖をジャラジャラと外して、鉄の扉を開ける。
「さ、入って入って。あ、キミたちの席も用意しておいたわよ」
いつの間にかスタンドチェアっていうの? 一本足の椅子が二脚、カウンターの前に置かれている。
「これ、どうしたんですか?」
「買ったのよ。この世界じゃいつでもどこでも、ゴールドさえあれば欲しいものが買えるし、その場に実体化するの」
ほらね、と、マグカップのコーヒーをカウンターに出してくれる。
「え? あ、じゃ昨日のコーヒーも、椅子も……僕たちそんなにゴールド持って……」
八代が代金に気づく。
「違うちがう、ごめん。店をあなたたちの拠点にして欲しいから、私が勝手に用意したの。ゴールドなんて取らないわよ」
八代と二人、安心からため息が出る。
「さ、二人とも座って。コーヒー飲んでね」
ベルさんに促され、店の奥にある背の高いスツールに、よじ登るようにして腰掛けた。
しっかし、本当にアメリカ人ってコーヒー好きだよなーと思いながら、まだ僕にとっては少し苦味がきついコーヒーを啜る。
「じゃ、ステータスを確認しましょ」
僕は言われるまま、いままで見ていなかったシステムメッセージを表示させる。
『Level Up!』の文字が、いくつもスクロールしていく――。
「えっ! ……ランク12、です。『ポイント』? ってのが40も貯まってます!」
「はぁ!? 12だぁ!?」
八代が、椅子から転げ落ちんばかりに絶叫した。
「俺なんてまだランク4で、ポイントなんて15しかもらってないぞ!」
「すごい! カツミちゃんはまさに最小・最軽量・最大火力のスナイパーね!」
「だなー!」
「そ、そんな三つも『最』つけなくても……」
「で、そのポイントってのはシステムがプレイヤーの初任務成功率を判定して、初回だけ付与してくれるのよ。いわば『初陣祝い』みたいなものね。
ランクは自動的にアップするけど、ポイントはプレイヤーが自分の好きなステータスに振り分けることができるの」
「自分で振り分ける……LPとAP、それにDPはわかるんですけど、いままで気にしてなかったこのDEXはなんですか?」
「あーこれは、Dexterityっていって、器用さ、利口さ、機敏さのことね。たぶん日本の学校じゃ習わないんじゃないかな?」
「「なるほどー」」
「じゃ、僕は……」と、40ポイントをそれぞれのステータスに振り分けた。
システムメニューのステータス表示が書き換わる。
『Sniper:A-Katsumi』
Rank(階級):12 LP(生命力・耐久力):40(変更なし)
AP(攻撃力):450 → 470 (+20)
DP(防御力):5(変更なし)
DEX(器用さ):5 → 25(+20)
「いいわねー、攻撃力と器用さに全振りね。これで「揺れ」や「跳ね」を抑えられるし、狙撃の安定感に繋がるわね!」
「それなら俺は、LPに10、残りをDPだ。DEXは上げねーよ」
『Attacker:EIGHT-A』
Rank:4
LP:120 → 130 (+10)
AP:80(変更なし)
DP:30 → 35 (+5)
「うん、攻撃力は捨てて、カツミちゃんが狙撃に集中できる時間を一秒でも長く作るため、耐久力と防御力に全振りしたのね! うーん、まさにナイトって感じ!」
「そうそう。俺が『盾』として一秒でも長く立ってりゃ、カツミがそのDEXで確実に仕留めてくれるんだろ? だったら俺は、一発でも多く耐えられる硬さが欲しいんだ」
八代は少しだけ誇らしげに胸を張った。
ポイントの振り分けが一段落して、ベルさんがあの話をしてくる。
「で、どうするの? いまの初期装備じゃPvPで敵に見つかったら、ひとたまりもないわよ?」
そうだよねー、やっぱり攻撃力と器用さに全振りしちゃったから、防御力が前のままだ。
ベルさんの言葉に、僕はシステムメニュー画面の所有ゴールドと、強化繊維を見比べる。
36ゴールドから30を引けば、残りは6……リロード弾60発分だ。
幸いにも残弾は97発ある……。ゴールドはこれからまた稼げばいいんだ。
「……お願いします。作ってください」
「毎度ありー。明日のログインまでには仕上げておくわ」
「え? これから作るんですか?」
「そうよ?」
「ベルさん、明日の昼間……学校は……」 僕が聞きかけると、ベルさんは一瞬、困った表情をした。
「あーうん。それは大丈夫! じゃ、そろそろお開きにしましょ」
そう言って笑うベルさんの表情に、僕は少しだけ影が見え隠れした気がした。
ベルさんの表情を気に掛けながらも、僕と八代はログアウトした。




