第17話 外征からの帰還、あるいは三十六ゴールドの重み
初のモンスター狩りを終え、そろそろ戻ろうかということになる。
「さーて、帰りましょうか」
「「はい!」」
なにしろデータとはいえ、実銃でハンティングをして獲物を倒したんだ。
八代は6発で1匹だったけど、僕は3発で3匹。しかも最後の1匹はミドル級だ。
後から興奮してきて、すぐにログアウトなんかしたくない。
「じゃあ武器をしまって……外征からの帰還よ」
タグが緑色に変わるけど、いつ何時他のプレイヤーから撃たれるかわからないから、警戒しながらセントラルシティに戻る。
途中、ベルさんが思い出したように振り返って言ってくる。
「君たち、いくら儲かったかお姉さんに見せてごらん」
「え、ちょっ……あんまり見せたくないんだけど」
八代があわてる。
「いいですよー」
僕は余裕だからすんなり応じる。
「あ! ずりー。カツミは3匹も倒して余裕だけど、俺なんて1匹だぜ。しかも弾、6発も使ってさ」
「わかってんじゃん」
「ほらほら、まずはエイト。いくらにゃー?」
なんかベルさんキャラ変わってない?
八代がシステムメニューを開いて読み上げる。
「えっと、1ゴールドです」
「まぁ猟犬サイズだったからねー。ということは、600円で1000円を手に入れた。純利益は400円。前衛としてはギリギリ合格点かしら。そーいった計算も重要よ。で、ドロップは?」
「……獣の牙」
「なにそれ?」
「獣の牙ぁー?」
僕とベルさんは、それを聞いて笑い転げる。
「だから言いたくなかったんだ!」
八代がむくれる。
「じゃ、カツミちゃんは?」
「えーっと、36ゴールドですね。スモール2匹分が6ゴールド。ミドルが30……え、300円の投資で、3万6千円?」
思わず現実の感覚で計算して、目眩がした。
3発の弾丸で僕の小遣い1年分……といっても現実世界じゃ1円にもならないんだけど。
ベルさんは僕の稼ぎより、モンスターのことが気にかかる様子だ。
「30ゴールド……やっぱりあのミドル、上位種だったのかしらね……MAXのAP800くらい?」
「そうなんですかね。胸のところになんか、一瞬赤い光が見えた気がしたんです」
「え? 私のバイザーの熱源感知には映ってなかったわよ。でも……あながち見間違えとは言えないわね。私も過去に一度だけ、同じような経験をしたことがあるから……」
ベルさんが一瞬、遠い目をする。伝説のスナイパーだけが辿り着ける「ゾーン」の存在を確信したような目だ。
「あ、ドロップは何?」
「んーっと、『強化繊維』って書いてあります。これ、役に立ちます?」
「そうね、それでフード付きのポンチョでも作れば、赤外線も遮断するマジな『擬装服』ができるかもしれないけど……ポンチョはスナイパーには必須装備だしね。特にカツミちゃんの金髪を隠すにはね」
「ポンチョですか!」
「あーポンチョねー」
初期装備を決めるときに八代と笑いながら選択しようとしていた、スナイパーポンチョ。
条件未達成で赤く弾かれたあの装備が、いま、僕の手元にある素材で形になろうとしている。
「ベルさん。これ、これでそのポンチョ……作れますか?」
実体化させた強化繊維を見せる。
ベルさんは職人の顔になり、じっくりとチェックしはじめた。
「やるじゃない。これだけの質なら、普通のショップ品よりずっと上等なのが仕立てられるわよ。ただし――」
「「ただし?」」
八代も身を乗り出してくる。
ベルさんは指を三本立てた。
「工賃として、30ゴールドは必要ね」
「30ゴールド……ベルさん、足元見てますね」
「人聞きが悪いわね。素材の加工は重労働なのよ。あら、ちょうど持ってるじゃない?」
……やっぱり、この人には敵わないや。
「それにいまは、ゴールドを稼がなきゃ。私の弾、本来は0.1ゴールドなんかじゃ買えないんだからね」
そんなことを話しているうちに、電磁ゲートが見えてくる。
ゲートを抜けると、システム音声が響いた。
『Leaving PvP Area. Safety Zone entered』(対人戦闘エリアを離脱。セーフティゾーンに入りました)
前を歩いているベルさんのタグが『緑』から穏やかな『青』へと戻った。当然僕も変わっている。
「ふぅ……帰ってきたー」
張り詰めていた糸が切れ、急に身体が重くなる。
アイテムストレージの中の36ゴールド。それを稼ぎ出した、7キロの銃。
それらが、現実の僕にはない「重み」を伴って、僕が確かにあの戦場にいたことを思い出させた。
「さあ、店に戻って『反省会』よ。カツミちゃん、レベルも上がってるはずだから、ステータスの確認もしなきゃね」




