表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/66

第15話 死神の指、四分の一秒の消失

「さて、次はカツミちゃんの番よ」

 ベルさんの視線が、僕を射抜く。


「はい。……いきます」

 僕は意を決して、アイテムストレージから『鉄の棒』を実体化させる。

 次の瞬間、腕の中にズシリとした、懐かしくも恐ろしい重みが戻ってきた。


 ――ここからが、僕の『初陣』だ。


「……っ」

 あまりの重さに重心を奪われ、膝が一瞬折れそうになる。

 岩に背を預け、震える手でマガジンを取り出した。昨夜、ベルさんの店で一発ずつ丁寧に込めた『死神の指』が詰まっている。


 マガジンを銃の底に叩き込み、右手をボルトハンドルにかけた。

 ボルトを後方へ引き、1発100円の弾丸を覗かせる。そのまま一気に前方へ押し込み、ハンドルを倒した。

 ガチャン――。


 冷たく、重い金属音が僕の耳を打つ。これで薬室に死神の指が送り込まれた。


「方位角298、距離220。同じ型のスモール級が2匹、こっちを見てるわよ。さっきのエイトの銃声で気づかれたわね」


「……ふぅ」


 僕は岩にバイポッドを固定し、地面に這いつくばるようにして伏せた。

 現実の僕なら絶対にしない格好。けれど、この『39キロの身体』は驚くほど柔軟に地面に馴染む。


 ゴーグル越しにスコープを『COMPASS:298(NW)』の方向に向け、覗き込む。

 ベルさんの説明によると、このM24には標準システムの10倍固定(10x42mm)スコープではなく、カスタムモデルの3から10倍の可変倍率スコープが装着されている。



「……いた」


 220メートル先。

 八代が撃ったのより少し大きい2匹のスモール級が、仲間の死に気づいてこちらの様子を(うかが)っている。


 ベルさんの指示に従い、僕は倍率を3倍に合わせた。

 スコープの中、220メートル先に佇む獲物は、目盛りにして4本分ほどの大きさでくっきりと映し出されている。

 そのうちの1匹に狙いを定める。


「一発……絶対に外さない」

 鬼軍曹から受けた「全弾命中」の感覚が、指先に熱を持って残っていた。

 1発100円。その重みが指先からトリガーに伝わる。

 すべてを吐き出すように、僕はゆっくりと息を吐いた。

  レティクルの中央がモンスターの胸元で止まる。

 いまだ。

 指先に少しずつ力を込める――。


 ――ッドォォォォォンッ!

 キィィィィィン――M24が、咆哮を上げた。

 八代のM16とは比較にならない、雷が落ちたような衝撃が右肩を突き抜ける。


 引き金を引いた、わずか0.25秒後。

 スコープ越しに、モンスターの姿が消失するのが見える。

 そこに、さっきまでいたはずのモンスターの姿はなかった。

 まるで最初から存在していなかったかのように消滅している。


「なっ……!?」

 隣で構えていた八代が、素っ頓狂な声を上げた。

「……消えた?」


 血しぶきさえ出ない――着弾した瞬間、ベルさんの『死神の指』が内側から炸裂し、スモール級の身体を瞬時にポリゴン状の(チリ)へと分解した。

 後には、周囲の砂が円状に吹き飛ばされ、一瞬だけ陽炎のような熱気が立ち上っているだけだった。


「なっ……なんだよ、いまの!?」

「嘘でしょ。オーバーキルもいいとこね……消失しちゃったわ!」


 八代とベルさんの呆れたような声が響く中、僕はまだ消滅した1匹目の残像をスコープで凝視していた。


 視野の端で土煙が激しく舞い上がった。


「……あ、もう1匹が!」

 相方の消失にパニックを起こしたのか、もう1匹が狂ったようにこちらへ突進してきた。


 距離、200メートルを切る。

 八代がハッと我に返り、盾を構えた。


「カツミ、次だ! 次を込めろ!」


 僕は痺れる右肩を無視して、熱を帯びたボルトハンドルを後方へ引き抜いた。

 シャコンッ!


 空薬莢が飛び出し、キンッと地面に落ちる。


 すぐに右手を前方へ叩き込み、次弾――二発目の『死神の指』を薬室に送り込む。


 スコープを覗き直す。

 レティクルの中で、牙を剥いたスモール級の貌がどんどん大きくなっていく。120メートル。


 トリガーに指をかけたそのとき、背後からベルさんの鋭い声が飛んだ。

「待ちなさい! まだよ、もっと引き付けなさい!」


「えっ……!?」

「カツミちゃんの銃は単発(ボルトアクション)なのよ! 外したら次はないわ。確実に仕留められる距離まで、獲物を引きつけなさい!」


 ベルさんの指示は絶対だ。

 僕は指を止め、スコープ越しに迫りくる「敵」を見据えた。


 100、80――。

「ベルさーん! 来るー!」

 八代が悲鳴のような声を上げる。


 60、50――。

 唸り声が聞こえる、肉眼でもその(かお)が見える距離。

 ターゲットは速度を落とさず、八代に向かって一直線に突き進んでくる。


「もう目の前だー! 当たるっ!」

 悲鳴を上げ、盾を顔の前に掲げて身を縮めた。


 30、20――。

 標的が地面を強く蹴り、八代の頭上を越えようと大きく跳躍した。

 その放物線を追うように銃身を跳ね上げ、レティクルを固定する。標的の胸元がスコープの視界一杯に広がる。


「いまっ!」


 ベルさんの囁きと重なるように、僕は一気に引き金を絞った。


 ドォォォォンッ!!


 至近距離での咆哮。

 放たれた一撃は、空中で身を躍らせたモンスターの胸部を正確に貫いた。

 0.1秒も経たぬうちに『死神の指』が内部で炸裂し、モンスターは悲鳴を上げることもなく、空中でポリゴン状の塵へと霧散した。

  その下で盾を掲げた姿勢のまま固まった八代がつぶやく。

「死ぬかと思った……」


「……ふぅ、はぁ……っ」

 僕は銃を構えたまま、荒い息を吐いた。


「合格。よく耐えたわね、カツミちゃん」

 ベルさんが満足げに、僕の肩を軽く叩いた。


「少し休んでて。チェックするわ。あ、薬莢拾っておいて……熱いから気をつけて」


 そう言いながら、手慣れた手つきで僕のM24のボルトを引き抜いた。

 そのまま銃口を空に向け、機関部(レシーバー)側から銃身(バレル)の中を覗き込む。

「……いい熱ね。ライフリングの焼き付きも、異常な摩耗もない。中古の割には、この『鉄の棒』、いい根性してるわ。あと2000発撃っても大丈夫そうね」


 ベルさんは満足げに目を細めると、カチリとボルトを戻した。

 その瞳には、単なる武器屋の店主としてではない、同じスナイパーとしての鋭い光が宿っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ