表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金凶星(ゴールデン・アステリズム)〜女子化した僕がVR銃撃戦で死神と呼ばれ、大切な師匠を裏切った最悪の宿敵を撃ち抜くまで〜  作者: 中島しのぶ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/66

第14話 十ゴールドの盾と、二つのレミントン

 店を出て、12番ゲートへと続く大通りを3人で歩き出す。


「ベルさんってこの辺じゃ有名人なんですか? 昨日の怖そうな人たちを追い払うなんて――」

 僕がちょっと気になっていたことを口にすると、ベルさんは歩調を緩めずに、ふっと口角を上げた。


「あー、そうかもね。リリース1ヶ月目くらいからプレイしてるし。武器屋だから顔も利く。そしてこれでも古参スナイパーよ?」

 そう言って誇らしげに笑う。


「あ! だから俺には塩対応なのか……」

「塩対応したつもりはないんだけどなー。私、前衛のことは分かんないからさ」

 八代がぼやくのをベルさんは軽く受け流す。


「なるほど……。あ、リアルのことを聞くのは御法度ですけど、日本語上手ですよね。英語には『ちゃん』の表現はないから、気になって」

 八代の指摘に、ベルさんは「あはは!」と笑った。


「そう。日本生まれの日本育ち。でも両親はアメリカ出身だから普段は英語。……それ以上はまだ秘密よ!」

 うん、そうだよね。誰にだって秘密はあるし……。


「へえ、自動翻訳かと思ってた。エイト、よく気がついたね」

「まあ、『ちゃん付け』がないのをちょっと知ってたし、タイムラグも全然なかったからな」

 少し自慢げな八代。


 けど、僕は違うことを考えていた。

 そうだ、聞いておくことがあった。

「古参スナイパーとして、ベルさんは拳銃以外には何を主に使ってるんですか?」


 これよ。と、H&K MP5K――クルツを実体化させる。

「スナイパーがバックアップとして持つサブマシンガンの王道よ」

 あとはーと、職人気質のベルさんらしく、いろいろ話してくれる。「射程距離は200メートルだけど、狙撃の邪魔にならない小ささ――スリングで肩から吊るして上着の下に隠せるし、いざという時の圧倒的な命中精度。拳銃(M1911A1)と同じ理由だけど信頼性の高さね」


「ありがとうございます。もう一ついいですか?」

「何なに? なんか今日は質問攻めだなー。いいわよー」

 と、クルツをストレージに戻す。


「ベルさんが使ってた狙撃銃はなんですか?」

「んーそうきたかー」

 よいしょっと、僕のM24とよく似た狙撃銃を実体化させる。


「あれ、それって僕の銃にすごい似てるけど、ちょっと違います。なんかちょっとだけ、長い……」

「さすがカツミちゃん、よく見てるわね。この銃はね、レミントン M40A1。M24の兄貴分みたいなものね」


「兄貴分?」

「二つともレミントンM700っていう、ボルトアクション方式のライフル銃をベースに作られてるの。M24はレミントン社が作ったものをアメリカ陸軍が制式採用。M40は海兵隊が独自に組み上げた物なの」

「だから似ているんですね!」


「そうなの。だからカツミちゃんのM24が気になって気になってー」

「あ、あははは」


「なんか、二人で盛り上がってますけどー。あそこに見えるのがゲートですかー?」


 八代は完全に蚊帳の外になり、不機嫌そうにわざとらしい棒読みで指を差した。


「あ、ごめん。そうそう、あれがゲート……エイトのM16A4だって、M40と同じ海兵隊の制式採用なのよ」

「あーそうですかー」


 話をしている間に、電磁ゲートに到着する。

 見上げるほどの高さの防壁と、鉄の牙を剥くような巨大な扉が、僕たちの前にそびえ立っていた。



「行くわよ。武器はまだ実体化させないこと。いいわね?」

 ベルさんの指示に、僕と八代は無言で頷く。


『Warning: Entering PvP Area』(警告:ここからは対人戦闘が許可されるエリアです)


 ゲートをくぐった瞬間、PvPエリアに入ったことを告げる音声が響いた。


 お互いのタグが青から穏やかな『緑』へと変わるのが見えた。

 ゲートの先には、乾燥した風が吹き抜ける荒野が広がっていた。


 はるか遠くの銃声が風に乗って聞こえてくる。時たま曳光弾(トレーサー)が描く光の軌跡が走るのが見える。けれど、僕たちの周囲だけは、不気味なほど静かだった。


「……ねえ、ベルさん。本当に撃たれないんですか? 僕たち、丸腰ですよ」

「うん……そうだよな」


「大丈夫よ。いまの私たちを撃てば、相手は即座に『黒』タグよ。この辺りの連中はそこまで馬鹿じゃないわ。……まあ、流れ弾には注意しないといけないけど」

 ベルさんが古参スナイパーらしく、僕たちを落ち着かせてくれる。


 アイテムストレージ内の7キロの『鉄の棒』と、4キロの『鉛と真鍮の塊』さえ実体化させなければ、ほぼ撃たれることはない。なのに、どこかから誰に見られている気がして、喉の奥がヒリつく。


「……なんか、変な感じだな。戦場なのに、誰も手出ししてこねぇ」

 八代が盾を持たない左腕を所在なげに動かす。


「それがシステムの力よ。……さあ、あそこの岩場を抜ければ、最初のハンティング場よ。そこから先は『赤』に切り替えるわ。準備はいい?」

 ベルさんの言葉に、僕は自分の胸の鼓動が速くなるのを感じた。


 岩場の向こう――そこが、僕が『死神』になるための最初の舞台だ。


「まずはエイト、あなたから腕前を見せてもらおうかしらね。AP80ならスモール級から試してみましょ」

「え? スモール級? もっと上狙おうよ」

 八代は少々不満気味にいう。


「あのね、スモール級っていっても、倒すのに必要なAPは50 から200なの」

「そうなんだ……」


「で、M16A4の有効射程は500だけど、前衛としてそんな遠距離じゃなく100から200メートルくらいの短距離に近づいて、スモール級を狙うわよ」

「はい」

「万が一のことを考えて、その距離なら私がこれでサポートできる」

 と、実体化させたクルツを手に取る。

 見ると、ベルさんのタグは『赤』に変わっている。


「ほら、エイトも早く出して。モードは3点バースト。それからゴーグルを下げて」

「はい」


 八代はM16A4を実体化させる。

「了解。……いくぜ!」


 M16A4を実体化させた瞬間、彼の頭上のタグも鮮やかな『赤』へと塗り替えられた。


 しばらく周囲を警戒しながら進むと、岩場の陰からカサカサと乾いた音が響く。

 猟犬のようなモンスターが僕たちを見つけて近づいてくる。

 走ってくるというよりは、様子を伺うように歩いているようだ。


「向こうのほうから来てくれたようね。猟犬型スモール級、1匹。距離150……方位角277。コンパスをよく見て!」


 ベルさんの鋭い声。八代は右手のアサルトライフルのストックを近場の岩に据え、中腰で構える。

 僕もゴーグルを下げ、モンスターの方を見ると、『COMPASS:277(W)』と表示されている。

 そして息を殺し、まだ『緑』のままの自分の指先を見つめる。


 タタタンッ!

 少し重みのある金属的な響きがする。

 八代の肩が少し後ろに揺れ、銃口が跳ね上がった。


「あ! 外れた! 止まらねぇ!?」と焦る八代。

「落ち着いて急所を狙いなさい! 次撃って!」と指示を飛ばすベルさん。


 再び銃声がする。


「キャウン!」 二射目の3発のうち、1発が頭を捉えた。

 犬の鳴き声に似た悲鳴を残し、モンスターが砂煙を上げる。


「……はぁ、はぁ……やったか?」

 八代が強張った顔のまま、ライフルの銃口を下げた。

 ゴーグル内の距離は80メートルだった。


「合格よ、エイト。一射目は力みすぎだけど、二射目で冷静に頭を狙えたのは評価してあげるわ」

 ベルさんが淡々と告げる。


 八代は「へへ、結構心臓にくるな、これ」と、震える手で言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ