第10話 ロビーでの洗礼と、鉄と油の案内人
「おいおい、見ろよ。また『見た目勢』の新兵か?」
ギャハハという下品な笑い声が、ロビーの噴水広場に響く。
声の主は、いかにも高そうなカスタムを施したアサルトライフルを肩に担いだ、フル装備の男たちだ。
「金髪碧眼の美少女アバターに、わざわざ重いだけのM24かよ。ファッションにしてはセンスが古臭ぇな」
「ギャップ萌えーってか?」
「たしかに可愛いけどな。それだけじゃ、この世界で生きていけねぇぜ」
そう言いながら、僕たちの方に近づいてくる。
「となりの兄ちゃんに、『助けて〜』って言って取り入ったんだろ?」
「お嬢ちゃん、その鉄の棒を振り回す筋力はあるのか? チュートリアルで運良く当たり引いただけだろ」
男たちの嘲笑に、僕は思わずM24のグリップを握りしめる。
なんか僕だけ標的になってるのは、なぜなんだ?
中身は男だっつーの! それにこれ、鬼軍曹に押し付けられたんだよ!――そう言い返したいけれど、慣れない美少女の喉からは、抗議の声も出てこない。
実際は怖くてそいつらを睨むのが精一杯だったんだけど。
「あ? 文句あんのかよ。そんな単発のゴミ、実戦じゃ、リロード中にその可愛い顔が蜂の巣だぜ。悪いこたぁ言わねぇ。さっさと売っぱらってピンクのサブマシンガンでも買っときな。そっちのが似合ってるぜ」
「おい!」
八代が立ち上がった、そのとき――。
「その鉄の棒がどれだけの精度を持つか、試してみる勇気もないくせに、よく吠えるな」
凛とした声が響き、男たちがたじろぐ。
現れたのは、大きい胸が目立つタイトなコンバットスーツに身を包み、腰に一挺の拳銃を下げた僕よりも頭ひとつ分くらい背の高い赤髪の女性だった。
彼女は僕の肩に手を置くと、男たちを冷ややかに一瞥した。
「この子は私の客だ。消えな」
「あ? ああ、ベルか。久々だな。悪かったな」
「おう。あんたの客だとは知らなかったんだ。すまん――」
男たちがなぜか彼女に謝りながら去っていくのを見届けると、彼女は僕たちに向き直り、ニット笑った。
タグには男たちが『ベル』と言っていたとおり、『Gunsmith:Bell』と表示されている――銃職人とか武器屋さんかな。
僕より15センチくらいも背が高い、琥珀色の眼をした赤髪切りっぱなしボブの外国人。年上のお姉さんだ。ま、僕の顔も外国人っぽいといえばそうだけど……。
「あ、ありがとうございます……ベルさん」
「ありがとうございます」
「いいっていいって。やつら新入りの女の子をみると、いつもああやってちょっかい出してくるんだ」
ベルさんの言葉に、八代が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……悪い、カツミ。俺がもっと強そうなら、あんな連中寄ってこなかったのにな」その悔しそうな声に、僕は慌てて首を振った。
「いや、僕が目立ちすぎるからいけないんだよ」
「あら、あなたボクっ娘? それにしても美人ねぇ。それに、確かに目立つわねーその金髪と銃は。だから私はこうやって時々見回ってるんだ。そして、新入りをみつけるのさ」
うわー、この人もタチ悪そうだー! と、八代と顔を見合わせる。
それを見て彼女が吹き出す。
「いや、冗談冗談。女の子が怖い目にあってるのが見過ごせなかったのと――」
僕のM24に目をやる。
「いい銃持ってるじゃない。アイツらが言ってたけど、チュートリアルで当たりでも引いたの?」
「あー、当たりというかなんというか……鬼軍曹に押し付けられたんです。弾倉、空っぽなのに」
「なーるほどね。あの鬼軍曹がねー。で、カツミはスナイパーになった、と」
僕の銃と、頭の上のタグを見ながら言う。
「で、そっちの前衛くんは彼氏?」
突然振られた八代があわてる。
「いやいやいや、あ……カツミは俺の中学の友達で、今日ログインしてチュートリアルを済ませたばかりで――」
「ふーん、友達ねぇー。ま、いいわ。ちなみに私は高一だけど、あまりリアルのことは言わない方がいいわよ」
そして彼女は八代のことよりも僕……というよりM24の方が気になるらしい。
「それよりその銃、私の店でメンテしてあげるから付いてきなさいよ」
「え、あ、メンテ……でも僕たち10ゴールドづつしか持ってなくて……」
「あー、チュートリアル済ませたばっかだもんね。しっかし昔はもうちょっと支給してくれたんだけどな。シケてんねー。って、カツミは残弾ゼロって言ってたわよね」
「は、はい。1発1ゴールドだからどうしようかと二人で相談してたんです」
「俺はM16A4のが90発あるんですけど、カツミとこれからどうやってゴールド稼ぎしようかと……」
「なるほどね。じゃ、それも含めて私の店で相談しない?」




