世界一かわいい義妹
さて、ようやく涼花の作ってくれた弁当を確認することが出来るな。そう心を躍らせながら開いた先に、楽園があった。そう、俺の好物が沢山入っていたのだ。エビフライとタルタルソース。マカロニサラダ、ミニトマト、定番の卵焼きまで入っていた。
俺はまず、卵焼きを手に取って口の中に入れる。どうやら今日は、だし巻き卵の方だったようだ。ふわっとした触感に、鼻を通っていく出汁の風味。噛むごとに、玉子が解けていき、身体に染みる。
うっめ~。思わず心の中で呟き、自然と緊張がほぐれていった。肩の力が抜け、止まらない手でぱくぱくと頬張るように、弁当を食べ進める。その表情があまりに幸せそうだったからか、葵が俺の事をじーっと見つめながら、余計な一言を告げる。
「すごい美味しそうに食べるね、もしかして彼女に作ってもらったの?」
なんて、ありえもしない可能性について言及する。瞬間、周囲の視線が俺に突き刺さった。え? お前彼女いながら、望未と桜にあ~ん、をしてもらったのかと。それは女子の方が顕著で、ゴミを見るような蔑んだ視線に変わる。特に白峰さんの視線がヤバイ。視線だけで射殺さんとばかりに睨み付ける。
(えっと、あくまで望未の憶測なんだけど……)
と心の中で、早とちりすぎるとツッコミを入れるのだが、そんな悠長に考え込んでいる時間はなかった。だって、桜や望未の驚いたような、裏切られたような表情をしているのだから。それがキツイし、なんなら桜が箸をシートの上に落として固まっている姿に罪悪感が湧いてくる……。
(というか、俺、葵に彼女いないって言ったよね!!)
と内心で盛大に突っ込みつつ、けれど言葉が強くならないように、焦って変な誤解がされないように肩の力を抜いて、ゆっくりと告げる。みんなに聞こえるように。
「違うって、義妹に作ってもらったやつだよ」
「え~、それにしては、幸せそうに食べている気がするんだよね~」
「当たり前だろ、世界一かわいい義妹に作ってもらっているんだから!!」
そう、少し緊迫した空気を変えるように言ったつもりだったのだが、なぜか葵の方は俺から少し距離を取った。若干引いた目線で俺を見つめながら。
「……えっ、もしかして、連ってシスコン? そういえば、この前も妹さんの話題出してたし……」
なんて、疑いの目を向けてくる。それに俺は首を振って答える。
「いやいやいや」
そう否定をする。俺は涼花の交友関係に過度に口を出したりしないし、交際相手を試したりするようなこともしていない。……いや、仮に付き合おうとするヤツがいるなら、まぁ一応は、事前情報を調べたりするとは思う……けど。
自分で言っていて、少し自信がなくなってきたところに、有明と大翔が、追い打ちをかける。
「いや、連はシスコンだな」
「えぇ、シスコンですね」
とさっきまでは傍観していたはずの有明と大翔がツッコんでくる。
「……」
なぜ俺に追い打ちをかける時に参加してくるのだろうか。……いや、まぁ、遠慮せずに言い合える仲だからいいのだが、少しは養護してくれても良いと思う。でも、一応は弁解をする。
「仮にシスコンだと認めよう。それでも、客観的に見て義妹の涼花は世界一かわいい」
「ほんとに~」
「うん、ほんとに!」
あまりにも強く告げたせいか、信じてくれたようだが、それ以上に呆れているようだった。身贔屓が過ぎると思っているんだろう。けど、これは事実だ。そんな俺をフォローするように望未が口を開く。
「たしかに、連君はシスコン気味だけど、涼花ちゃんが世界一かわいいってのは本当だと思うよ。実際に、私なんかよりもずっとかわいいしね」
そう言い切ったことに葵は驚いたように望未を見つめる。
「いやいや、謙遜でしょ? ね、連?」
その問いにどう答えるか迷う。もしもかわいさという部分で競うなら、間違いなく即答で涼花だ。だけど、それはある意味で望未を否定するような答えで。悲しい表情は見たくないって思う。だから、
「可愛さなら涼花に軍配が上がるし、目を惹くような存在なら、望未って感じかな」
そういつも思っている気持ちを素直に零す。すると、その言葉を意外そうな目で、望未が見つめてくる。目をパチクリさせながら、俺を見つめたまま固まっている。
いや、今の回答ってやっぱりキモい感じだったのか。普段から見惚れてますって線だし……でも、褒めた方が……というか本心を言った方が良い流れだと思うじゃん?
そんな俺の同様とは違い単純な疑問として、望未が訊ねてくる。呆けた表情で。
「それって、本当に?」
「……えっ、うん」
「そっか」
なんて、呟く彼女は驚きの方が勝っているようだった。それに不思議と笑ってしまう。相変わらず、自分の評価だけは低く付ける傾向にあるな。なんて、望未らしい部分が見えて、なにより、変にこっちだけ意識しすぎていた事実に肩の力抜けた。
「ちなみに、桜のことはどう思ってるんですか?」
「……えっ」
急な問いかけに振り返ると、なぜか俺を試すように、じーっと見つめる雫の姿が目に入った。これは本心を答えた方がいいのか、どうなのか。そう逡巡していると、なぜか、俺を逃がさないように、肩をぎゅっと両の手で押さえつける。
嘘は許さないと、そんな圧を感じて、本心を零す。
「それは、純粋な反応の可愛さとか、素の感情がそのまま伝わる純粋さとか、そういった部分は桜らしくて、かわいいと思っている。けど……」
「ふんふん、そうですか」
一応は納得したのだろう。雫は俺を解放するように、手を離す。代わりになぜか、男子の視線が鋭く突き刺さるようになったけど。ほんと、変に二人を口説いたような雰囲気になってるじゃん。マジでなんで?
なんて一人で悲観しているのに、そんな俺に追い打ちをかけるように葵は告げるのだ。
「そんなに言うなら、妹ちゃんの写真みせてよ」
「なんで今なんだ」
「気になるんだもん。そんなにかわいいって言うならね」
少し疑ってるのが分かって、自分でも分かるほど、少しムッとするのが分かった。だから、自信満々に答える。
「いいよ。でも見惚れるなよ~」
「へ~、すっごい自信あるじゃん」
なんて何故か、彼女もムキになっている。でもその気持ちは痛いほどわかる。俺が涼花を大切にしているように、葵もまた望未がとても大切なんだ。そう分かるから、少し、俺は茶化すように告げる。男子が覗き込みそうなので牽制も含めて。
「でも、男子に見せないように見てね。絶対に惚れるから」
そういって、葵だけに見えるようにスマホを上に掲げる。それを覗き込むように彼女も座って見つめた。
「どんだけ自信あんのよ」
なんて、半ば呆れたように言いながら。そんな文句を言っていた彼女は、溜息を吐きながらスマホを見つめる。そして固まった。その可愛さに、さっきまでの軽さが消えて、画面をじっと見つめている。
「これ……加工してるよね?」
「してないけど」
「メイクは?」
「ノーメイク」
「……嘘でしょ」
信じられないものを見るみたいな目で、俺を見て。確認するように望未の方を見つめる。望未が苦笑しつつ伝える。
「残念ながら本当だよ」
そう言うと、
「……」
葵はもう一度画面に視線を落として、ぽつりと呟いた。
「……天使じゃん、こんなの」
さっきまでの疑っていた反応とは真逆で、ただただ見惚れたように画面をじーっと見つめる。その反応に思わず、口元が緩む。やっぱり、そう思うよね!!なんて誇らしげに胸を張りながら。そんな俺の様子を悔し気に見つめつつ、嫌味を言ってくる。
「でも、この頃の年頃だと反抗期でしょ、お兄ちゃん近寄らないでって」
そんな時期があっただろうか?なんて記憶を遡ってみるが、思い当たらない。
「……? いや普通に接してきてくれるけど?」
それに苦笑したのは、以外にも千夏だった。
「いや~、あれは普通じゃないでしょ。傍目から見たら、恋人の距離感だし……」
なんて訂正する。
「いやいやいや」
なぜか俺の方が否定することになっている現状に少しおかしさが残るなか、葵が愕然としたように地面に両手を突く。
「そんなバカな……可愛くて姉をしたう子がいるはずが……」
なぜか姉と言っている辺り、彼女にも妹がいるのだろう。それも、さっき自分で言ったような、反抗期に入った子が……。
「まぁ、うちの子は実在するんだよね~、羨ましいでしょ?」
「羨ましいし、妬ましい!今度逢わせて、絶対だよ!!」
俺の肩を思いっきり揺さぶり、脳を揺らしてくる。バカッ、お前。と平衡感覚がおかしくなりそうな程、強く揺さぶる。それから逃れるように告げる。
「わかったから、離して!」
「——あっ、ごめん」
とホントに離し、その勢いのまま俺は望未の膝に顔を突っ込んだ。その柔らかい太ももに顔を埋める形で……。
——ぽふっ。
そんな音がしそうな、感触に顔を埋めた俺は慌てて、顔を上げる。そして、脱兎のごとく謝罪した。
「ごめん、望未」
深く頭を下げる中で、チラリと窺った彼女の表情は彼女の表情は、誰もが分かるほどに真っ赤に顔を染めて、俺の視線を遮るように右手前に出し、そして左手で口元を覆っていた。全部隠れていないけど……
その表情に何だか、俺まで恥ずかしいくなってくる。そんな俺の姿を葵が逃すことなく。
「もしかして、望未の感触でも思い出してんの?」
なんて告げてくる。
「葵ーーー」
そんな彼女の行動を咎める。俺の言葉が、青空の中、響き渡るのだった。




