魅惑的な彼女に惹かれて
クラスメイトが集まっている場所に近付いていく。それでも未だに心臓の鼓動は早まったままで一向に収まるような気配はない。
(はぁ~……ふぅ~……)
俺は深呼吸をしつつ何とか息を整える。胸に手をやり軽く叩きながらどうにお落ち着かせようとするも未だに心音は煩いままだった。
そんな様子を他のクラスっメイトが不思議そうに見つめている姿が目に入って俺は走って雫たちの元へと戻るのだった。
***
元の定位置。雫と葵の間に空いたスペースに戻ると、俺の表情を確認した有明が口元に笑みを浮かべながら口を開く。
「連君、少し顔が赤いですね」
誰が見てもわかるほど分かりやすいのだろう。雫や葵を含めて俺の方をじーっと見つめている。
……さすがに、バレるか。
顔を逸らしたい気持ちにかられつつも、俺は素直気持ちを吐露する。
「そりゃ当然ね……信頼してるなんて言われたら嬉しいでしょ」
「えぇ、そうですね」
同意するように頷きつつも苦笑している彼はどこか楽しそうだった。絶対に揶揄っているなコイツ……と思いつつ視線を鋭くしていると、隣から声が飛んでくる。
「桜は、喜んでましたか?」
「えっ……あ、あぁ、一位を取れて喜んでたけど」
「そうですか。体育祭、楽しめているみたいで良かったです」
なんてどこか柔らかい笑みを浮かべていた。……そっか、やっぱり雫は桜のことを本当に大切に想っているんだなって、嬉しい気持ちと温かい気持ちが胸に浮かんでくる。
ふっと笑みを零れつつ、見つめた雫の表情は、目の前にいる桜をじーっと見つめていて。自分後のように、嬉しそうに微笑んでいた。
「連、そろそろ望未の番になりそうだよ」
葵が肘で俺を軽く突いた。葵の視線の先には、目の前にある、お題の用紙を真っ直ぐに見つめる望未の姿があった。真剣に見つめる彼女の表情は幼稚園時代にいた、一生懸命な姿と重なった。
だからかな、思わず
「がんばれ」
なんて呟いていた。漏れ出たその言葉に葵が驚いたように俺を見つめる中、『パンッ!』と号砲が鳴った。
その音に振り返るように望未を見つめる。視線の先にいる望未は、スタートした瞬間から、誰の目をも惹いていた。先程のダンスの影響もあるのだろう。誰よりも前で走る彼女の姿を皆の視線が追うのがわかった。
(……速いな)
漏れ出た言葉には、彼女の成長のスピードも、そして走る速さにもいえたことだった。10年ぶりにあった彼女はすっかり変わっていて、綺麗になっていて。けど、優しさだけは変わっていない。
真っ先にお題を手に取った彼女は、その内容を確認した瞬間、踵を返して迷いなくこちらに向かってくる。
「連君っ!」
いつになく真剣な表情で告げる彼女に、思わず息を呑んだ。まるで俺が呼ばれることを予想していたのか、クラスメイトが呆れつつも目の前の道を開けてくれる。そんな中、差し出された望未の手を取るために前に出て、手を握る。
小さい頃に繋いだ手の温もりとは違う。俺を引っ張る力強さと、サラッとした質感。それと女性特有の柔らかい感触に少しドキッとさせられる。
小さい頃に手を引いていた彼女に、引っ張られる感覚に少し置いてかれたような気持ちが湧きつつ。それでも彼女の成長する速度に置いてかれないように俺も前に出る。
地面をしっかりと蹴って、彼女の歩幅に合わせて走り出す。隣で走る望未は今、どう感じているのかな?
「ふふっ、少し懐かしいね」
なんてどこか楽しそうに笑う彼女もまた、小さかった頃の記憶を思い出しているのだろう。幼稚園や公園で、泥だらけになりながら遊んだこと。些細なことで笑いあっていた日々。それと、どこか満たされた感情が胸に蘇る。
「そうだな」
なんて、どこか軽い足取りで俺達はゴールした。あの頃のように、ただ一緒に走ることの楽しさを思い出したように。
望未がお題の用紙を受け渡す中、司会の人は先程とは違い、なぜか俺の事を訝し気に目を細めて見つめていた。
「……なるほどねぇ」
なんて、用紙と俺の事を見比べて。それから望未と桜の方を見つめる。目線を下げて顔を上げた時には切り替えたのか、いつもの明るい声で表情で発表する。
「今回のお題は……イケメンな人です!」
次の瞬間、男子たちの視線が一斉に突き刺さった。……えっ、お前が?とでも思っているのだろう。その気持ちはすっごく分かる、分かりすぎて思わず望未の方を見つめるも。何故か自信をもって頷く。
いやいや、さっきの司会の人も微妙な反応をしていたじゃん!
って思う。流石にこれはペナルティになるんじゃない?なんて、司会の方に視線をやると、首を傾げながら、どこか納得したように頷く。その視線は先程のような鋭さはなく、どこか温かなものに変わっていた。
「あ~、お題の判定は大丈夫ですよ」
「……はぁ」
どこか、気が抜けたように感じつつ、隣にいた望未がくすっと笑いながら告げる。
「連君は十分にカッコいいよ」
なんて不意打ちで告げられた言葉に、耳元で囁かれた声に驚いて思わず距離を取ってしまった。驚いて見つめた先にいる望未はどこか魅惑的な笑顔を浮かべていた。それに思わず俺を含めて、借り物競争で既にゴールしている男性の視線を集めていた。
望未は笑みを深めつつも、
「じゃあ私は行くね」
なんて、一位の列に向かって行く。その姿に
「……あぁ」
としか返せなかった。呆然と突っ立ったままの状態で桜と視線が合う。どこか不安そうにする彼女に悪いと思った。
この暑い時期でぼーっと突っ立っていたら、熱中症とかを疑うよな。なんて、心配させたことを反省しつつ、俺もその場を去るのだった。




