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貫いた熱

男の足が、ほんのわずかに踏み込まれた。

 その動きに、運び屋の背筋がひやりとする。

 “来る”――そう直感した瞬間だった。

 キィン、と乾いた音。

 男の袖口から、細身の短刀が滑り出る。

 刃には、不自然な濁りがあった。


「――っ!」


 声にならない叫びと同時に、男が踏み込む。

 狙いは、白のローブの胸元。

 だが――

 運び屋の身体が、反射的に割り込んでいた。

 鈍い感触が、脇腹を貫く。

 熱と痺れが遅れて走り、喉から息が漏れた。


「……っ、く……!」


 足が、わずかによろける。

 その瞬間、セレストの目に、はっきりと“殺意”が映った。


「――やめなさい!!」


 咄嗟に突き出された両手。

 空気が震え、衝撃の法力が炸裂する。

 轟音とともに、男の身体が吹き飛ばされた。

 岩肌に叩きつけられ、短刀が乾いた音を立てて転がる。


「日向さん――っ!」


 セレストが駆け寄ろうとした、その時。


「聖女様!!」


 洞窟の奥から、聞き慣れた声が響いた。

 護衛隊長と数名の騎士が、剣を抜いたまま駆け込んでくる。


「刺客か!」


 形勢が一気に逆転する。

 追い詰められた男は、よろめきながら立ち上がった。

 その口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。


「……見事、ですね。

 やはり、血統の良さは伊達ではない……」


 次の瞬間、男は背後の断崖へと身を投げた。


「待て――!」


 隊長の叫びも虚しく、

 闇の底へと、黒い影が吸い込まれていく。

 残ったのは、

 床に落ちた短刀と、

 浅く広がる血の跡だけだった。

 静寂が、重く降りる。

 セレストは、震える手で運び屋の身体を支えた。


「……すぐに、治します。

 どうか、意識を……」


 彼の体温は、少しずつ下がり始めていた。


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