ひとりの随行者
そのときだった。
洞窟の奥から、
足音がひとつ、近づいてくる。
瘴気の薄れた通路の向こう、
暗がりの中から、
何食わぬ顔の男が現れた。
「ご無事ですか! 聖女様」
まるで偶然、追いついたかのような口ぶり。
だが、瘴気の薄れた通路を抜けて現れた男の足取りには、
迷いがなかった。
「……」運び屋は静かに状況を見守る。
セレストは、反射的に背筋を伸ばす。
「……あなたは……」
記憶の奥を探るよりも先に、
“教会の人間”だということは、装いで分かった。
勿論、一行の中には教会側からも護衛の人員は来ている。
祈祷用の簡素な法衣。
随行者の一人に過ぎないはずの立場。
だが、その目は――静かすぎた。
「探しましたよ。
瘴気が急激に薄れましたので……
慌てて降りて来たしだいです」
男は、そう言って軽く頭を下げる。
その動作は丁寧で、
礼節を欠いてはいない。
けれど。
「……他の方々は?」
セレストが問うと、
男は一瞬だけ、視線を洞窟の奥へ流した。
「王国側へ向かわれた班と、
こちらを探索する班に分かれました」
さらりとした報告。
まるで、
“あなたがここにいることを最初から知っていた”
かのような口ぶりだった。
その背後、
暗がりの向こうには、
まだ誰の姿もない。
――単独。
セレストの内側で、
微かな警鐘が鳴る。
それを察したのか、
男はわずかに首を傾げた。
「……何か?」
優しい声。
だが、
目だけが、ゆっくりと二人を測るように動いた。
まだ完全には起き上がれていない運び屋。
その光景を、
ほんの一瞬、
値踏みするように眺めてから。
「……瘴気の中和、
おひとりでなされたのですか?」
確かめるような問い。
それは、
労いの言葉に似せた、
“探り”だった。
セレストは、男の視線を正面から受け止める。
胸の奥に、
さきほどまであった温もりとは違う、
冷たいものが沈んでいくのを感じながら。
「……はい」
短く、答えた。
男の唇が、
ほんのわずかに歪んだ。
それは、
誰にも気づかれないほどの、
ごく小さな笑みだった。
ーーだが。
何かが“確信に変わった”顔だった。




