表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

ひとりの随行者

そのときだった。

 洞窟の奥から、

 足音がひとつ、近づいてくる。

 瘴気の薄れた通路の向こう、

 暗がりの中から、

 何食わぬ顔の男が現れた。


「ご無事ですか! 聖女様」


 まるで偶然、追いついたかのような口ぶり。

だが、瘴気の薄れた通路を抜けて現れた男の足取りには、

 迷いがなかった。


「……」運び屋は静かに状況を見守る。


 セレストは、反射的に背筋を伸ばす。


「……あなたは……」


 記憶の奥を探るよりも先に、

 “教会の人間”だということは、装いで分かった。

勿論、一行の中には教会側からも護衛の人員は来ている。

祈祷用の簡素な法衣。

 随行者の一人に過ぎないはずの立場。

 だが、その目は――静かすぎた。


「探しましたよ。

 瘴気が急激に薄れましたので……

 慌てて降りて来たしだいです」


 男は、そう言って軽く頭を下げる。

 その動作は丁寧で、

 礼節を欠いてはいない。

 けれど。


 「……他の方々は?」


 セレストが問うと、


 男は一瞬だけ、視線を洞窟の奥へ流した。


「王国側へ向かわれた班と、

 こちらを探索する班に分かれました」


 さらりとした報告。

 まるで、

 “あなたがここにいることを最初から知っていた”

 かのような口ぶりだった。

 その背後、

 暗がりの向こうには、

 まだ誰の姿もない。

 ――単独。

 セレストの内側で、

 微かな警鐘が鳴る。

 それを察したのか、

 男はわずかに首を傾げた。


「……何か?」


 優しい声。

 だが、

 目だけが、ゆっくりと二人を測るように動いた。

まだ完全には起き上がれていない運び屋。

 その光景を、

 ほんの一瞬、

 値踏みするように眺めてから。


「……瘴気の中和、

 おひとりでなされたのですか?」


 確かめるような問い。

 それは、

 労いの言葉に似せた、

 “探り”だった。

 セレストは、男の視線を正面から受け止める。

 胸の奥に、

 さきほどまであった温もりとは違う、

 冷たいものが沈んでいくのを感じながら。


 「……はい」


 短く、答えた。

 男の唇が、

 ほんのわずかに歪んだ。

 それは、

 誰にも気づかれないほどの、

 ごく小さな笑みだった。

 ーーだが。

 何かが“確信に変わった”顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ