Scene13: 春への扉
「俺はなんでまだこんなとこに残ってるんだよ!」
孤独に嘆いてから屋根に額を押しつけ、頭を冷やす。
今や俺は、竹の縁で引っかかってなすすべのない流しそうめん。
自力脱出はできないなのだ。
救いの手が必要なのだ。
不本意だけれど頼みの綱は、妹しかいないのである。
それなのに怒らせてどうする。
「ユイ……ユイちゃ~ん。お願いだから戻ってこ……戻ってきてくださいよぉ」
暗がりへ返り咲いてしまった屋根の上で、閉ざされた窓に向かって呼びかけつづける。
だが、妹はまったく応じない。
テレビの音は聞こえず、室内は静かになっている。
カーテンの隙間からはまだ照明がこぼれてきているので、寝てしまったわけではないだろう……俺を反省させようとちょっぴり無視しているだけなのだ。
「俺が悪かったから、頭を冷やしたから、このとおり!、許してください」
さすがにこのまま放置プレイはないだろうと高をくくっていたが、動向がうかがえ知れないまま、体感で5分も経つと焦ってきた。
いくらなんでも無反応が過ぎるんじゃないか?
妹は部屋にひっこむ間際、ウォークマンをちゃっかりパクっていきやがった。
俺の指から伸びたイヤホンコードの片端は、モジュラージャックを剥き出しにして、屋根の付け根に落ちている。
もう窓に衝撃を加えることもできない。
呼びかけ以外にできるのは、困ったときの神頼みならぬ星頼み。
ああ、お星さま、どうかあの恐るべき愚妹を、もう一度窓の前に立たせてください。
もしくは数秒だけでいいので地球の重力を取っ払ってください。
上空をふりあおぐと、まだ雲ひとつない夜空で、星が流れつづけていた。
これだけ流れ落ちていれば、どれか一つが願いを聞き届けてくれるかもしれない。
だが如何せん、俺も信心深い人間ではないのだ。
妹ではないけれど、次々と流れては儚く消えていく星々を見ているうちに、我が身に起こるであろうごくごく直近の未来を暗にしめしているだけの不吉な象徴にしか思えなくなってくる。
俺は窓に向きなおり、小刻みに震えっぱなしの唇を開く。
「お、おーい、ユイちゃ~ん。…………てめぇ、いい加減にしないと――」
辛抱たまらずへりくだっていた口調を戻して発した途端、それが合図だったかのごとく、室内照明が消された。
窓の枠線を浮き上がらせていた光がハタと消え、目の前が文字通り真っ暗になる。
あまりのショックに、えっ、という声も出せず、目を見開いたまま俺は固まった。
氷の粒を入れられたかのように冷たい汗が背筋をくだる。
……やりやがった。やりやがったぞ、あん畜生! ガチで寝やがった!
もはやこれまで。
飛び降りるか、通報されるか、屋根で氷漬けになって朝を迎えるか、の三択。
そう絶望した矢先、――
カチャッ。カラカラカラ。
窓はふたたび開かれた。




