Scene11: パッセンジャー・ユイ
遮光カーテンが一気に引き開けられる。
室内照明の白い光りが夜闇に煌々と放たれ、俺は眩しさ目を閉じた。
「なにこれ、湿布?」
訝しげな声が聞こえて瞼を開けると、パジャマ姿の妹が窓際に立っていた。
運悪く、妹の顔はホッカイロになっている。
窓に貼りついた位置と妹の頭の位置が重なる余計な偶然。
頼みの綱だったはずのホッカイロが一転して視界を遮る邪魔者だ。
ホッカイロごときに隔てられて俺を認識し損ねられたら、たまったものではない。
「湿布じゃねぇ、ホッカイロだ! いいから窓開けろ!」
窓は開かれ、ホッカイロが横にスライド。
バタコさんに新しい頭を投げつけらたように妹は本来の顔を取り戻したが、冷たい外気に触れて、すぐに「うわっ、さぶぅ~」と水に濡れたアンパンマンのように表情がゆがむ。
「寒いから閉ぃ~めよっと」
「おい閉めんなよ! 下だ、下! 下を見ろ!」
妹は体を抱くように擦りながら、おかっぱ頭を窓枠から出した。
俺とバッチリ目が合ったあとに、「ええっ!?」と驚いて、ウォークマンを拾い上げる。
「なんでスマホが屋根の上に落ちてるの?」
……やめてくれ。
こんな状況下でいろいろとボケるのはやめてくれ。
俺は怒声を上げたくなる気持ちを必死で抑え、やさしく語りかけた。
「ユイ……これでわかっただろ。俺はご覧のありさまなんだ」
「いや、意味分かんないし」
妹は冬の空気よりも冷たい口調で吐き捨て、ウォークマンを顔の前からどけた。
心配して取り乱すような場面にもかかわらず、「何やってんのタツ兄」と半眼で見下げてくる眼差しは雪女のように鋭く尖り、冷静に呆れ返っている。
さすがは薄情な愚妹。
ひねくれた性悪女。
ついでにお笑い好きのバカ。
これだから、できることなら妹の手を借りたくなかったのだ。
取り扱い注意の難しいやつなのである。
ひょっとすると俺が屋根の上にいることに気づいていてわざと放置していたのかもしれない。
でも問いただすのは後回しだ。
屋内へ生還したあとで、広瀬すず秘蔵コレクションの隠し場所を知っていた件と合わせて、きっちり問い詰めてやる。だから今は、――
「なにも聞かずにロープを持ってきてくれ!」
「首でも吊るの?」
「わかった、訳を話す……」




