第5話 醜形恐怖症
「皆さんこんにちは! Missing Fishing チャンネルのチサです!」
「ということで、なんと今日は、一人で緊急ライブ配信です」
「クルーの皆さんにも内緒で来ちゃいました。そう。ここは?」
「じゃん! 『ブラックバスをフルコースで食べよう』の回で来た湖ですよ」
「見てくださいよ、この水面! 今日は程よく風も吹いてて、キラキラしてきれいですねー」
「ここは透明度も高いから、ヒメマスさんも、ブラックバスさんも、優雅に泳いでるところを、上からたくさん観れちゃうんですねー」
「さてと。今日は、ちょっとね、思うことがあり、みんなにそれを伝えたいなぁと、ここに来たわけですが……。えぇと?」
「え? あ、はい。そういえば、コメントね。コメントコメントっと。今日はクルーの皆さんがいないから、ちょっとは大目に見てよね」
「かわいい? あ。ありがと」
「サングラスとマスクとって? あぁ、これね。私、このチャンネル始めてから、ずっとこのスタイルでやってきたけど、今日は、もしかしたらチサちゃんの素顔を拝めるかもだぞー! だから、みんな拡散拡散! チサちゃんを、トレンドに送り込んでくれー!」
「はい。ひととおり盛り上げたところでですね。本題です」
「ちょっと重い話、しちゃいます」
「ここ何日か、いろいろ吹っ切れたことがあってね」
「思ったんだ。何も怖くないって」
「私は、いつもみんなのコメントを全部じっくり読んでるんだよ?」
「なかなか、レスバはできないけど、全部読んでる。ホント」
「『チサちゃんのチャンネルだけが心の支えです』『チサちゃんがいるから月曜からまた学校へ行ける、会社へ行ける』そういうコメントをみると、嬉しい反面、どうしようもなく胸が締め付けられるんだ」
「ホント、ボロボロ泣いて止まらなくなっちゃうんだ」
「私はね、こんなに明るく振舞うことはできても、本当はすごく弱かった」
「人の目が怖かった。自分の醜さが怖かった」
「かわいい? ありがと。あ。こんなにいっぱい『かわいい』をくれてありがと」
「でね、私は中学生のころから、マスクをはずすことが、どうしても、どうしてもできなくて、マスクなしでは、一歩も外へ出られなかった」
「親は心配したよ。そして精神科に引きずって行かれたんだ」
「醜形恐怖症だっていわれた」
「お医者さんの、私の瞳の奥まで見透かそうとする目で、本当に壊れちゃったんだ。私」
「ばちーん。って音が聞こえるくらいに。いや、バスーン……かな?」
「ま、どっちでもいいか」
「で、その後は、みんなも知ってるとおり、高校へは行かずに引きこもったんだ」
「そして出会ったのが釣りだった。引き込もり生活しながら、釣り系のチャンネルを見漁ってたんだ」
「初めて、釣りをした時の感動は忘れられないよ」
「自然とのふれあい。そこでは、誰の目も気にすることはない」
「そして、このチャンネルを始めた」
「サングラスとマスクなんて怪しい見た目でも、みんなは受け入れてくれた」
「『かわいい』とまで言ってくれた」
「みんなが私を強くしてくれた」
「そして、最近はこの強さを、みんなに分けてあげられると思うようになった」
「私は、みんなのために最強になれる」
「一番怖いと思うものにだって立ち向かっていける」
「そう……」
「死ぬことだよ」
「私は、みんなのために死ねる」
「何も怖がらなくていい、学校だって、会社だって、死ぬことに比べたら……。ね?」
「私は、この美しい湖に身を沈めることにした」
「このキラキラ輝く水面に、この身を任せて、自然と一体になりたいんだ」
「サングラスをはずすよ?」
「まっぶしいねー」
「本当にきれいだなー」
「え? 目どした? 目どしたのって? これね。何日か前から、目ん玉君のなかを泳いでる子たちがいるんだよねー! ちと痒いんだが」
「あ、マスクもはずそっか。はい、チサちゃんの素顔だぞー」
「じゃん! どうだ」
「病院、病院、病院病院病院、病院いけ、病院いけ、病院いけ、いけいけいけって、そんなにひどい顔してる? え? ひど。ひどすぎん?」
「病院って、私にとっては、死ぬことよりも嫌なんだよ? それ」
「あ?」




