タリスの真意
帝国タリスは、自らの武力による世界支配を終わらせたがっていた。流血による力づくの統治には限界があることを、彼らは誰よりも深く理解していたのだ。武力を維持することは大変で、タリスは疲れ切っていた。
タリスが真に望んだのは、驚異的な探求心と研究・改良能力を誇る「ノアリア」を、新たな世界文明の中心地へと押し上げることだった。
その構想はきわめて緻密かつ合理的に実行された。
ノアリアから各地へ送り出された「派遣民」の手によって、各属州国の生活インフラが次々と整備されていった。同時に、タリスから持ち込まれた各種の製品や技術は、ノアリアの開発者たちの手によって極上の品質へと改良された。そして、タリスが世界中に誇る広大な貿易網に乗せることで、それら「ノアリア製品」は瞬く間に世界市場を席巻したのである。
いまや、各国のノアリアに対する依存度は絶大なものとなっていた。
世界を裏で支える最高峰の技術、外交を彩る最高級のワイン、そして人々の日常を豊かにする高品質な製品――それらすべてがノアリアから生み出されている以上、誰もが「世界の中心はノアリアである」と疑わなかった。
これこそがタリスの描いた理想だった。
表舞台において地上の覇権と栄光を握るのは、清廉で愛される「ノアリア」。そしてタリス自身は、ノアリアに反発する敵対勢力を陰から密かに鎮圧し、ノアリアや属州国のインフラ整備へ莫大な資金と資源を投資し続ける「陰の盾」となること。それこそが、タリスが真に自らに課した役割であった。
タリスがノアリアという理想国家を通じて目指したのは、各国間の過度な生活水準の格差を埋めることだ。
他国の富や環境を羨み、自国の不足を嘆いて暴動や戦争を起こす悲劇を無くし、世界中の民の幸福度を一定以上の水準で安定させたい――それが彼らの真の狙いだった。
それは決して、各国の固有の文化や特徴を削ぎ落とし、均一な世界を作りたいという意味ではない。それぞれの土地の文化や特性を尊重し、独自の営みを守りながらも、誰もが「自分の生まれ育ったこの国こそが、最も過ごしやすく素晴らしい」と心から誇れる世界を目指した。
圧倒的な武力を持つタリスと、比類なき知性を持つノアリア。
二つの国が手を取り合って創り出したのは、武力支配の先にある、穏やかで永続的な世界平和のシステムそのものであった。




