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ノアリア叙事詩  作者: うめよろし
帝国タリスの理想と新経済圏の芽吹き

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自給自足という回答

 私は、派遣民の意義深さをよくわかっている。名誉な仕事だ。

 

 清涼で静謐なノアリアの街並みを未来へ残すためなら、どんな泥臭い


現場の調整役でも引き受ける覚悟があった。


 ある時、タリスの徴税人から一通の報告が寄せられた。


「セレニア地区は収穫量が豊富で、十分に納税を行っている。しかし、


税収のうち正貨の流通量が極端に少ない理由を調査してほしい。」

 

 調査を進めると、その原因はセレニアの商人たちが収穫物や特産品を


隣国の商人と直接「物々交換」していたことにあった。


 セレニアの人々は、タリスの武力による保護を望まず、どこまでも自


立した存在でありたかったのだ。この地区の商人たちは口を揃えてこう


言った。


「タリスの支えなど要らない。私たちは貨幣に頼らない」

挿絵(By みてみん)

 だが、それは彼らのちっぽけな誇りが生み出した意地だった。

 

 実際には、派遣民の知識をあてにし、遠方から栄養豊富な土壌を取り


寄せ、作物の長期保存技術を導入するなど、彼らはすでにノアリア派遣


民の恩恵を存分に被っていたのだ。タリスに「大きな借り」ができてい


る事実こそが、彼らにとって何より悔しく、依存度の高さ危険だと感じ


ていた。


 派遣民はただ仕事をこなしているだけ、タリスは生活水準の格差によ


る暴動を抑えたかっただけであり、「貸し」も何もないのだけど、そう


した大国の意図は現場には届きにくい。そこでサラは、帝国の真意を村


人に伝えた。生活水準を上げるために、タリス貨幣に対応してほしい


と。実際に、村人にタリス貨幣でやり取りしている農具や金細工を見


せ、タリス経済圏に入りたいか聞いてみた。


村の女性たちは賛成し、男性たちも、高い技術を目にし、折れた。


現物納税のまま、タリス経済圏に入りたいというセレニア人の希望が通


り、貨幣制度を導入することになった。そこで、まず、サラは水路を改


良するなどして成果を出し、報酬としてタリス正貨を手に入れた。村役


場に正貨を持って行き、正貨10枚で穀物1kgと交換した。また、駐在し


ているタリス兵に頼み込み、積極的にセレニア製品を買い、技術者を雇


い、外壁の修繕などやらせた。


こうして、タリス正貨が村中に行き渡り、それを聞きつけた商人が村に


やってきて、ノアリア製品など高品質な生活備品や、異国の珍しい衣服


などを持ち込んだ。


 しかし、便利な輸入品に頼り、生活力を落としたくないので、生活


必需品は物々交換ルートに残した。売人にタリス正貨を渡し、作物の品


種改良をお願いしたいと言い、1年払いでノアリア研究者と契約する者


もいた。役場の資源(穀物、種子、野菜など)の交換可能な数だけ正貨


が出回った。


「調査してほしい」という依頼に対する回答は、「自給自足が可能な社


会であり、生活必需品を物々交換ルートに置いて、非常時に備えてい


た」と回答した。タリス貨幣の導入については、黙っていた。



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