ハオランの由来
ハオランは、しばらく工房で寝起きし、吟遊詩人として活動することにした。
ここ一帯のはぐれ異邦人を集め、帰郷の儀式を行うというのを、一週間ほどこなした。
工房の関係者は、異世界から来た人がここまで多くいるとは思わず、目を見張るばかりだった。
ハオランの見立てでは、こちらの世界にやってきた人の多くは言葉がわからないまま、奴隷商人に見つかり、売られていっただろうということで、奴隷売買のための専用区画を回り、弾き語りをした。
奴隷たちは、首からは性格、健康状態、特技(読み書きができる、調理ができる等)、過去の逃亡歴などが書かれた銘板カードが下げられていた。ハオランの歌を聞き取った奴隷は、夜半、主人の元を抜け出してパン工房へ向かった。一日に20人ほどは帰郷させていた。
帰郷の儀を受けたもののほとんどが、転生して日の浅い人びとだ。
この世界での在籍日数が長いひとほど、この世界の平穏が、タリスやノアリアの血の滲むような努力で成り立っていることを知っており、また「神の兵」の恩恵を受けたものもいて、そうした人は、ひっそりとハオランを見ていた。
近辺では相次ぐ失踪で騒ぎが起きた。
ハオランは、一帯の住民が、失踪騒ぎの原因と自身の公での露出を紐づけはじめた頃に、活動拠点を変えることを繰り返した。
「なぜこんな危ない仕事をしているのですか?」エイダは問うた。
「大金で雇ってくれたのが嬉しかったからさ」ハオランは蜜入りのパンを美味そうに食べながら言った。
「前科持ちでね、ガキの頃からスリをやってたんだ。ミスをして捕まり、禁錮1年。出所した時、どこも雇ってくれないだろうと思っていたら、声をかけられたんだ。危険を伴うが価値のある仕事だといわれ、ついて行った。
それで、こうして、危険を冒してこの世界にやってきた。こんなやりがいのある仕事はそうそうない。」
ーー犯罪者だったんだ。エイダは、自分が感じていた違和感の正体を知った。
「この仕事、怖いでしょう。」
「怖いよ、綱を引っ張って、なんの反応も無かったらと思うと、ぞっとするよ。」
「もしそうなったら、ここで働きなよ。」
「ありがとうね。」ハオランははにかんだ。
「ねえ、この世界とのつながりはどうやって作ったの?」
ああ、といって、ハオランはエイダの方に体を向けた。
「ある人物の脳波に、君の脳波が似通っていたから、君を捕捉でき、こうしてつながりを作れたんだよ。
その人物とは、この世界に転生し、三週間ほどして帰ってきた人だ。
彼が転生した時の状況を再現し、その時の脳波を記録し、失踪者が多発する地点一帯を音波測定したところ、いたるところから、似通った波長を拾うことができた、特に強かった波長を集音器を流し込むと、
君の声が聞こえた。こちらから一定の波を照射し、その反射波を受信し、君の姿形、場所、本棚の本と読んでいる本の内容まで計測できた。一定の波長で化け物の姿をモデリングし、君と接触させた。君とノートで繋がることができたから、ノートで文通し、あとは知っての通り。君の世界の食べ物を取り入れたら、こちら側に来れた。この世界については、君の読んでいた本、持っていた本に書かれた以上のことは知らない。」
「・・・え、」
「つまり、私たちの世界で、失踪者が増えている。それを解決するために、俺は送り込まれたということ。この世界の知識を得るために、君の本を拝借したということ。」
「なんで化け物の姿で現れたの?」
「問答無用で接続するためさ。脅しのため。ごめん、こちらも必死なんだ。」
「ふーん。すごいものが作れるんだね、そっちの世界では。」
「うん、すごいよね。俺も詳しくはわからないんだけど。」
それからしばらくの沈黙があった。
エイダは不思議と、ハオランの言葉の意味がわかるような気がした。
「ノアリアとタリスについては、よくわかっていないが、反戦、反奴隷を訴えている2国ということはわかった。ノアリアは存在そのものが、反奴隷制を訴えている。この奴隷市場が摘発されるのも時間の問題だな。タリスが介入して消えるんだろうね。」
ハオランは市場が消える前に、できるだけ多くの人を救助し、稼ぎたいといった。
転生が成功したかは、向こうの国々の窓口が、ハオランの上司に「受け入れ完了」メールを送ることで、判明するとのことだ。その報告は、ハオランにも通達され、ノートに「受け入れ完了」と文字が浮かび上がった。メールとは伝令のようなもの、と言われ納得した。
この世界に転生したひとがたくさんいることに驚いた。
エイダは物心ついた頃から、この地にいて、土地の言葉もわかる。
ベルはどうなんだろう。そういえばノアリア人の祖先って、皆由来不明の奴隷じゃなかったっけ?
タリスが介入し、奴隷の身から解放されたとき、寡黙で一言も話さなかったって聞いた。
ハオランに聞いてみた。
「この土地にノアリア人という人種がいてね、祖先の由来がわからない元奴隷なんだ。寡黙で従順だからタリスが積極的に買い取った。この人たちって、転生者かな?」
「可能性はある。ノアリア人は今どんな環境にいるんだい?」
エイダがにんまりとした。
「四方を剣山で囲まれた、安全な改良土の土地にいるよ。元大帝国タリスがある属州国から彼らを引き取り、土地を与えたんだ。タリスが何から何まで世話をし教え込み、独立した国家になった。いまだにタリスが護衛しているけどね。今や文化の中心地だ」
「そうか、武力で名を馳せたタリスがそんなことを。自重で潰れる前に後継者を作ったのか。理想郷で暮らしていて、そのうえ戦争を予防する国際級の物資分配の仕組みまである。
その国に私の仕事の需要はないかもね。私が暮らしたいくらい。顔を出すくらいはしておこうかな。」
「それでは、ベル様にお伝えして、同伴を依頼しましょう。ノアリア人の許可がなければ、国には入れないから。」
ベルはエイダから手紙を受け取った。
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ベル 様
拝啓 新緑の候、ベル様におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
日頃は温かいご指導をいただき、心より感謝申し上げます。
さて、本日はハオランの件につきましてご相談がございます。
ハオランがノアリアを見学し、自らが帰郷したい者を探したいと希望しております。
つきましては、ベル様に同伴していただくことは可能でしょうか。
お忙しいところ誠に恐縮ですが、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
末筆ではございますが、ベル様のますますのご活躍とご多幸をお祈り申し上げます。
敬具
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返事は二日後にきた。ハオランのノアリア行きが決定し、彼は自分の荷物をまとめた。
工房の人々に挨拶し、出立した。
ベルはこの過程で奴隷区画の存在を知り、摘発した。商売人は巡回人に拘束されその区画はタリスが管理することになった。




