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ノアリア叙事詩  作者: うめよろし
異界

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転生の儀式

ハオランはパン工房を根城にし、夕暮れ時、いつの間に手に入れたのか、クロシェハットによれた古着を着てブズーギを携え、街中に入って行った。ベルは気になり、ひそかに後をつけた。


ぼさついたセミロングの髪を見失わないよう、ベルは急ぎ人をかきわけついて行った。

ハオランは市場に来ると、露店から少し遠いところに腰をかけ、帽子をひっくり返し、弾き語りをはじめた。人々は彼の周りに集まっていく。独特のざらついた低音は、聴く人々を惹きつけた。


ベルは彼が、似通った曲を多言語で一回ずつ歌い分けているのだと気づいた。

それでいて、マンネリ化しないように、アドリブを加えたりするので、聞き飽きなかった。

彼の歌の歌詞を聞いて、驚いた。

------------------------------------------------

地が裂けた


私たちは飲み込まれた


知らない人、知らない街


故郷は遠く彼方


ここは古き約束を守りし桃源郷


私の望みが叶った?


見上げた空だけは変わらぬ


いつも表情を変え、私を喜ばせてくれる


私は故郷が懐かしい


菖蒲の葉、シロツメクサ


家族の温もり


帰らなければ

------------------------------------------------

通行人、商売人のなかで、じっと彼の歌詞を聞き入っている人々がいた。

彼らは足を止め、あるいは仕事を中断し、ハオランのそばに行った。

ハオランは、なおも歌い続けた。


◇◇◇


クロシェハットに小銭が投げ入れられた。

『なあ、あんた何者だ』

ハオランに声をかけたのは、漁師だった。ハオランは区切りの良いところで歌を止め、漁師と向き合った。漁師は続けた。「元の世界に帰る方法を知っているのか。」

核心をついた漁師の発言を受け、ハオランを取り巻くひとびとが、一斉に彼を見た。

『はい、それを望む人は、私から金貨を受け取ってください、これはあちらの世界の金貨です。金貨に触れれば、元の世界に帰れます。』

漁師はハオランの発言を、ほかのひとに通訳した。

端的で不可解な提案に、人々がどよめいた。


漁師と同じ語圏らしい建築家がいった。『ここは市場、金貨を見せるのは良くない。場所を移しませんか。』

『ええ、最寄りのパン工房に移動しましょう。』

ハオランは集まった硬貨を布袋に入れ、帽子をかぶり、楽器を手に工房へ向かった。

取り巻いていた人々は、ハオランの後について行った。


◇◇◇


工房は本日の業務を終え、暖簾を下ろしていた。門番の衛兵がハオランを認め、鉄の柵を解錠した。

人々は工房に入っていき、ハオランの動作を見守った。

ハオランはスーツケースから金貨を取り出し、先ほどの漁師と建築家を呼び、二人と正面から対峙した。

『私の世界の金貨です。これを手に持てば、元の世界に帰れます。』

「そんな簡単なことで帰れるのか。なら、ここに来た時携えていた所持品に触れてもなんともないのはなぜだ。」 

漁師はまくし立てるように言った。

「それは、貴方が元の世界と繋がってなかったからです。見てください。

 私自身は、元の世界と縄で繋がっています。」ハオランは、左手にくくりつけられた縄を見せた。縄は、ハオランが背負うリュックサックの中に伸びている。

『向こうの世界で、私の手綱を握り、見守ってくれている人がいます。』

『どういう仕組みだ。』

『詳しくは話せません、企業秘密です。縄を強く引くと、故国に控えている仲間が連れ戻してくれます。』

『追及はやめませんか、私たちの希望は彼しかいません。まずは私が金貨に触れます』

建築家はなるべく穏やかな声で話した。

「それではあなたから。名残惜しい、お名前を聞かせてください」

「ヨキ・ニコラウです」

「ヨキ・ニコラウさん、行ってらっしゃい」ハオランが差し出した金貨をヨキが受け取った。


ヨキが消えた。


人々はどよめいた。ベルは皆が恐れて拒否するのではないかと思ったが、

人々は進んでハオランの前に立った。みな、自分の本名を告げた。

人々なりの、ハオランへの感謝と礼節の表れだった。


「本当に戻れたか、確証もないのに。」ベルは首を傾げた。

来ては見たものの、今の世界があっていると感じた者は、後方に下がって、一部始終をただ見ていた。


「なぜ金貨なのですか?」

「向こうで色々入り用でしょうから」


こうして、ハオランが連れてきた人のうち11人が転生した。夜は更けていった。

「もう遅いので終わりにします。気が変わったら夜間、公衆広場へお越しください。

 追及、歓迎します。不安に思うのは自然なことです。おやすみなさい。」

人びとははけて行った。

エイダは言った。「本当に元の世界に戻ったか、確認する術はないのですか?」

ハオランは「今からお見せします。私、一度故国に帰ります。ここに戻ってくるには貴方の手帳が必要です。開いて、置いておいてください。」

「わかりました。」エイダは手帳を開いた。

ハオランは何度か腕を動かし、くくられた縄を引いた。


ハオランが消えた。


◇◇◇

……30分後、

しばらくして、手帳に文字が浮き出た。「そっちに行きます、お土産あります。」

手帳に書き込まれる文字の先にペン先が現れ、人の右腕、肩が現れ、左手に箱を持ったハオランが現れた。


エイダはあっけにとられた。

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