神の国
ノアリア建国前、タリスの心理士が保護されたシノア族の奴隷と話した。彼が怒った時、机のグラスが弾けたという。
この話でタリス人たちは「神の術を使う民」「神の民だ」と盛り上がった。元帥が、この話を潤色し故意に広めたおかげで、タリス兵の、奴隷を見る目が変わった。奴隷の人々を特別なものたちだと信じた。
実際、彼らの無駄のない振る舞いと表情、いつ解放されるかわからないなかで心身を平静に保ってきたところをみた元帥、兵士のいずれもが並外れた人材だと感じた。
この優れた人たちによる社会が見たい。
それは私たちタリスの向かうべき姿に違いなかった。
奴隷たちの元主人シノア族は、他国との交易が盛んで、使い(シノア族における奴隷の呼称)がシノア族のそばを影のように寄り添い、公正な取引ができるよう動いた。奴隷身分のため交渉権はないが、交易の実務に詳しく実質的には商談を支えていた。例えば、市場の商人が皮20枚を銀貨30枚で売りに来た時に、使いが皮の状態を丹念に調べ、値する金額を主人に伝え、商取引が妥当に進むよう配慮していた。
話すのを拒む奴隷が一度こぼした事がある。「昔、神の国という組織があった。多くの種族が加入していた。富は等しく保たれ、どの国も不満はなかった」それは各国の政情・物資を共有し、ある国が暴力に訴えた時、速やかに連盟が組まれ、圧倒的物量で鎮撫・無血開城をしたという。そんな途方もない組織が実際あったのなら、すごいことだが、再構築できるものなのか、私にはわからなかった。




