発掘された男
ルーンや村人たちが順調に土づくりや大根の「地盤解し」を進める中、農地の奥深くや旧宅の瓦礫の底から、かつてタリス軍が封印・配置した「過食期を終えて沈黙していた鉄仮面の不老者」が掘り起こされた。
見覚えのある黒い甲冑の中身は骨だった。かつてここが無人地帯だったころ、不寝番として配置されていた不老者の兵が、放置され、土に埋もれていたらしい。
もう一体、甲冑を着た不老者が、なぜか肉体を綺麗に残した状態で発見された。
掘り起こし、甲冑を外し、服を着せ、ハクジャの部下ヨルの仮家のベッドで寝かせた。彼はずっと眠り続けていた。
ある日、ヨルが体を拭くために手拭いと水の入ったタライをもって寝室に入ると、不老者が起き上がっていた。休眠状態から覚めたのだ。
男は真っ先にヨルに向かって「今、ディオネ皇帝の何年だ?」と聞いた。ヨルは答えた「ヘラ皇帝が崩御し、ハクジャ様というスラムの王が君臨して三ヶ月だ」男は、帝国が消えたことを理解した。
「私の仲間は?」「あなた以外は皆骨になっていました。」
男は絶句した。
「あなたは以前何をされていたのですか?」
「王の護衛と毒味役だ、体調が戻り次第、同じ仕事がしたい」
あらゆる毒を受け、虫も菌も彼の培った毒を分解できなかったようだ。
「まずは落ち着いて、一週間ほどこの村で暮らされてはいかがでしょう。歩くだけでも辛いはずです。」
そう促され、男は頷いた。筋力が極限に落ち、骨と皮である。「不老は惨めじゃの」とつぶやいた。男の名は、キケロといった。男は、ヨルから、帝国転覆や、流通する貨幣が変わったことを知らされた。
「まずは村を散策されてはいかがでしょう。それから、市場にも行ってみましょう」男は村を歩き回った。綺麗な白壁の同じ間取りの家が並んでいる。時間を知るための木の棒が立てられている。ところどころ、戦渦が通り過ぎていった匂いがある。焼け跡のある石などが落ちている。
村人は、物珍しそうに見てくるキケロを、彼と同じように好奇の目で見た。
「王の元へ行きたい、王をお守りするのが私の役目だ」そこでルーンが呼ばれた。
キケロはルーンに問うた。「新体制の住み心地はどうじゃ」
ルーンは答えた。「いろんな文化が行き交って、楽しいですよ。王も柔軟で、納税義務はあれど、納税形態に制約がありません」
「王が気に入れば、税金として物産品を受け取るのか?」
「はい」
「奇特で寛大な王じゃ。王のもとで働きたい。」
「わかりました、一ヶ月後、王に文を送りましょう。ただ一ヶ月の間、水を飲み、食事を摂っていただきます。そのお姿で謁見しては、こじきのようです」
一ヶ月の間で、肉付きが良くなり、他の村民と遜色ない体型となった。ルーンは王に宛てて文を送った。
新体制に好意的な不老者は、新王に興味津々だった。
タリス崩壊の混乱を経て、ノアリアを首都とし、セレニアを中央銀行(経済の要)に置く新たな国家が樹立されていた。
その統治体制は、タリスの優れた郡県制をまるごと活かした合理的なものであった。国土の中心部は「皇帝直轄地」として中央政府ハクジャが直接治める一方、遠方の地方都市は「地元の名士」に税の徴収や自治を任せ、監視役として中央政府から官吏を派遣した。
さらにインフラ整備は「派遣民」へ外注し、旧体制の法律をベースに税負担だけを軽減する形が取られた。
この新体制の裏には、実力者ハクジャとその組織の強い影響力があった。 彼らはかつてのタリス首都および皇帝宮殿を奪取して巨大な拠点としたが、ハクジャ自身は権力の誇示を嫌い、あえて宮殿近くの文官の邸宅を買い取って住まいとしていた。そのため宮殿の居住部は客人用となり、派遣民のサラや伝令、そして新たにやってきた「キケロ」のような者が利用していた。
ハクジャの元には毎日大量の手紙が届くため、直下に置いた20名の文官それらをふるいにかけ、重要な案件のみを自ら確認していた。ある日、「150年ぶりに発掘された不老者が、毒味役として側で働きたがっている」という信じがたい手紙が届いた。ハクジャがすぐに「会いたい」と返答すると、護衛に付き添われて不老者キケロが現れた。
キケロの本職はもともと毒味役であったが、人手不足ゆえにたまたま無人地帯で不寝番をさせられていたという。ハクジャは、彼を気に入り、側近として側に置くことを決めた。
一方、セレニアにいる派遣民のサラは、部下が集めた情報から物価や法人業績、雇用情勢などを確認して金利操作を行う傍ら、新国家の基盤となるタリスの法律を読み込む日々を送っていた。今のところ、問題といえば不老者くらいで、地方は、各能吏がよく治めていた。




