宴と青空教室
ククルでは、ライカと、ハクジャやルーンが手配した建築作業員が、瓦礫の山や焼けた壁の中で立っている。作業員数はライカを除き14名。
ライカは自宅の様式を覚えていて、作業員はライカの証言をもとに間取りを図面に起こしていった。
倒壊した建物や焼けた村役場の倉庫の復旧は、ハクジャの部下たちが先導して作業してくれた。「どちらかと言えば壊す方が得意」な方々だったが、基礎の再構築の作業は整然としており、手慣れている印象だった。
まず、残存している壁や柱が崩れ落ちないように、危険な部分はあらかじめ引き倒して解体。
瓦礫の中から再利用できる「梁、柱、石材、瓦、金」を選別して取り出す。再利用できない資材は、敷地外へ運び出す。
基盤となる土地を平らに地ならしし、丸太など使って土を強力に叩き固め、地盤沈下を防ぐ。木造建築のため、柱の下に敷く平らな石を均等な高さで配置する。石を配置し、柱が水分を吸って腐るのを防ぐ。
ここで、ライカの証言で作られた図面の出番となる。骨格作りだ。
礎石の上に、土台となる木材を渡し、垂直を確認しながら柱を立てていく。柱の上に梁を渡し、組み合わせることで建物全体の強度を確保する。屋根の骨組みを組み上げ、建物全体の骨組みを完成させる。
屋根の下地として、野地板(瓦を支えるための屋根の下地となる板材)を張り、竹や瓦を重ねて屋根を葺き、柱と柱の間に割竹を格子状に編み込み、土壁の下地を作る。粘土に藁くずや白砂をまぜた白い土壁を塗り込む。
復旧工程「解体(安全確保)→資材の選別と搬出→地盤固め→礎石の配置→骨組み組み上げ→屋根葺き→土壁の作成・塗り込み」を一世帯あたり七日で、各段階を二名で行い、二週間ですべての家の枠組み作りが終わった。
ルーンが村に帰ってきた。ライカはルーンに、住宅の基礎作りは終わったと報告をした。ルーンは、たった二週間で建設がここまでスムーズに進むとは思っていなかったため、ひどく驚き、ライカと作業員と握手をし、感謝の言葉を述べた。
「ここまで早く基礎作りが終わるとは思いませんでした。ライカ殿、皆さん、ありがとうございます。」
ルーンは、特約票で脂の乗った肉や魚、質のいい麦酒、葡萄などをたくさん取り寄せ、ククル村の人や作業員たちと宴をした。肉は交易で手に入れたさまざまな香辛料をまぶして一晩おき、一口大に切り分け、串に刺して焼き、全員に酒とともに配った。魚はキノコや葉野菜といっしょに大きな葉っぱで包み、蒸し焼きにしてバターを塗り果汁をふりかけ、人々の輪の中心に置いた。大盛況だった。
気分が良くなった作業員は、麦酒を飲みながら肩を組み、仲間同士で流行っている歌を歌い出した。作業員たちは住み込みで活動していて、村人と同じようにテント暮らしをしている。郷愁の念がそれをさせるのかな。
ルーンは隣に座る建設作業員にお酌をした。
「先生、ご家族には会えましたか」
「ええ、なんとか貨幣の特約票替えを終えたようで、一息ついていました。」
「それはなによりです。私も家族と会えるのが楽しみです。
先生、土の状態についてですが、黒くなり、土の粒子が大きくなったような気がします。生ゴミ臭がしなくなり、雨上がりの森のような香りがしました。土は順調に、作物を育てるのに適したものになったのでしょうか?」
「それは、粘着性のある微生物が土の粒と木炭を結びつけ、塊となっているのです。結果として、土の中に適度な隙間が生まれ、水捌けがよく、水持ちもいいふかふかの土になります。
お話を聞く限りでは作物を育てても良い状態になっています。
明日、土の状態を直接確かめます。」
「土の色が黒いのはなぜです?」
「生ごみや米ぬかが分解され、木炭の黒色が目立つようになったためです。」
「なぜ木炭を入れるのですか?」側で聞いていた女性がルーンのそばにやってきた。
「木炭には無数の小さな穴があり、そこに米ぬかなどの養分が保持され、雨があっても養分が流れ出にくくなるのです。また、微生物が天敵から身を守る隠れ家にもなります」
「ルーン様が帰郷されてから、土が暖かくなっていました、これはなぜですか?」
女性の後ろからひょこりと顔を覗かせた少年が、聞いてきた。
「米ぬかや生ごみ発酵液に含まれる養分をエサとする細菌が一気に増えます、そのときの代謝熱で土が暖かくなるのです。」
村のこどもも混じり、ルーンを中心に問答をする場ができていた。座る場所がなく、立ってルーンの言葉に耳を傾ける兵士や建設員がいた。ルーンは養成所で教わったことを、慎重に言葉にした。ルーンのその姿勢を、その場にいたものは好ましく思っていた。




