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ノアリア叙事詩  作者: うめよろし
ククル村の再建

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タリスの宰相の手記(シノア族の生活)

 実験都市ノアリアに入植した頃の奴隷の様子や、彼等の主人だったシノア族について記す。


 ノアリアの山深いところに祭壇がある。


 これは、シノア族の神との交信所兼日時計だった。シノア族は、地面に削った木の枝を一本立て、影の向きと長さで時刻を読んでいた。


 夏は日が長いので1時間が通常よりも長く、冬は真反対に短く、太陽が最も高くなった時に正午とする。


 タリスが占領し、シノア族が連行され、残された奴隷たちは、頭を空にし、ただ立っていた。


 占領軍が奴隷を見分けられたのは、シノア族が絹を身に纏っていたのに対し、奴隷は麻布を纏っていたからだ。今までに何度も、奴隷を使役する部族を接収してきたが、ひどい場合だと奴隷に刺青をさせたり、特徴的な髪型をさせたりするので、シノア族はかなり奴隷を大切にしていたことがわかる。


 絹糸をふんだんに使った日用品や珍しい香辛料を見かけたので、交易に強い部族だったようだ。奴隷たちの表情を見、あきらかに占領軍は救い主ではなく「悪」だった。


 狩猟兼交易民族のシノア族の一日は以下の通りだ。まず5:00に起床し、火おこしと祈祷を済ませる。旅の安全や五穀豊穣を祈る簡単な儀式を行い、昨夜の残りの麦粥や乾燥肉、茶などを口にする。


 交易班は6:00に荷分けを終えたロバや馬に荷物(干し果物、織物、塩漬け肉、農具など)を積み込み、遠方へ向かう隊商を出発させる。かつ、村の真ん中にある広場で、近隣の部族や旅人を迎える「早朝市場」の準備を開始。荷ほどきや商品の陳列を行う。市場にやってきた外の商人や旅人と、通貨(ノアリア正貨やコイン)かつ物々交換で取引を行い、旅の情報を買い取ったり(他国の戦況、相場価格、街道の危険情報など)する。農耕チームは午前中は、集落周辺の灌漑畑で雑草抜き、水引きをし、綿花、小麦、オリーブ、ブドウなど商品価値の高い作物の手入れをし、オリーブオイルの搾油、羊毛の糸紡ぎや織物、皮なめしなど、「交易品」へと加工する作業を進める。


 昼頃になると、木陰や隊商宿キャラバンの吹き抜けで、焼き立てのパン、チーズ、果物、温かいお茶などを囲む。そして、午前中に動いた物資の量や通貨を帳簿に記録する。天秤を使った貴金属や穀物の計量が丁寧に行われる。農耕班畑からその日の夕食に必要な分や、明日の市場に並べる新鮮な野菜を収穫し、村へ持ち帰る。交易班は新しく運び込まれた物資(他村の珍しい工芸品や鉄製品など)の荷降ろしと仕分け作業が行われる。


 夜半、家族や集落の仲間、さらには村の宿に泊まっている外の商人たちと一緒に大きなテーブルや絨毯を囲み、肉煮込み料理やパンを食す。


 集落の中央で焚き火やランプを囲み、旅人や商人から「どこの都市で何の価格が高騰しているか」「街道筋の治安はどうか」といった生きた経済・地理情報を聞き出す。


 若者たちは長老から「外国語の単語」や「数字の数え方」「上手な交渉の駆け引き術」を教わる。


 夜半、倉庫や集落の入口に武器と警笛を持った警備隊(見張り)を配置し、交代制で監視を行いながら就寝する。これがシノア族の一日だ。


 奴隷は、農耕において、重労働に駆り出された。耕作地を開墾し(樹木を伐採し、根を掘り起こす)、灌漑用の用水路掘り、水汲み、重い薪や収穫物の運搬、肥料(家畜のフンなど)の集積・塗布作業を行い、交易において、隊商キャラバンの重い荷物の荷揚げ・荷降ろし、街道の整備(雑草刈りや岩の撤去)、遠征中の荷車引きや家畜(馬・ロバ)の世話、狩猟において解体した大型獲物や大量の獲物を村まで背負って運ぶ作業などを行なった。


 シノア族では奴隷はかなり重宝され、丁寧な扱いを受けていた。食事は共にしていたようだ。長老により語り継がれる神話を理解し、部族に忠誠を示せば、かつ、開墾作業が終われば部族の一員になれる制度があった。部族への昇格難度は高いように見えた。


 占領軍がシノア族に介入したのは、売り物の品質の高さに魅せられたからだった。シノア族の技術をタリスのものにしたかった。我々は「盗人」だ。シノア族の成熟した社会を壊わし、欲しいものをぶんどった。シノア族には今後、タリスの臣民として生活してもらう。


 扱いに困ったのは、奴隷たちだ。


 私たちは彼らの安寧を奪った。より良い環境に身を置いてもらわねば。


 奴隷たちの表情からは何も読み取れず、内面が透明で落ち着いていて、空っぽのような印象を受けた。


 奴隷たちに必要なのは、休息ではないか。


 うってつけの休息場がある。タリスがつくった新国家の民になってもらおう。タリスは多くの国を制圧し武力で牽制し接収し、多くを得たが疲弊していた。タリスとは全く違う国が、属州国を牽引し、感情まかせでない、理性的な自立を促せたら。そんな望みを、タリスの上層部はもっていた。そうして生まれたのが非武装のノアリアだった。


 実験都市には政府から大金が投じられている。だから、生活を維持するための道具はなんでも揃っていた。田畑、家畜小屋、竈門、屋外の調理場、灰坑、回転式手挽き臼、水力製粉所、高床式倉庫、地下貯蔵庫、ブドウやオリーブを踏み潰す圧搾場、井戸、水路、魚の処理・下ごしらえで出た血や内臓、汚れを洗い流すための傾斜付き排水溝、これらを作り出す知識を教える学舎もあった。


 ノアリアの民となった人々に、これらの道具を授け、学舎で技能を習得してもらい、自前の技術も使いしばらくは静かに暮らしてもらおう。


 我々もシノア族の技術(染色や織り、香辛料の配合)を取り入れていきたい。


 祭壇も祭礼道具もそのままにし、保護区域に認定した。           時間感覚が狂わないように、ノアリアにも同じ条件の立地で日時計、祭壇と祈りの場を再現した。日時計は、ノーモン(指針、影を落とす棒)と文字盤(影が落ちる面に刻まれた時間を示す目盛り)であり、はじめタリス人が着工したが、途中からノアリア人たちが祭壇作りを引き継いだ。


 彼らの神や時間まで奪う権利は我々にはない。


 また、絹などの祭礼道具、儀式器具は目録を作成し、シノア族の長と祭司にすべて返却した。



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