家族
「おかえり!」自宅の玄関の前で、呼び鈴を押すのを渋っていたら、
扉が勝手に開いて、ひょこりと弟が顔を出した。奥の方で姉と母が立っている。
「すごい、よくわかったね」僕は笑いながら室内に進んだ。
「おかえりー、目の下にくまが見えるよ、大丈夫?」姉が困ったように笑う。
「おかえりなさい、休み休みやってる?」母が静かに言った。
「大丈夫、ほどほどにやってる、ただいま」
さらに進み居室に入ると、ソファに座る父の姿が見えた
「父さん、足どうしたの?」
父さんは松葉杖をテーブルに立てかけている。
「先週挫いたんだ、おかえりなさい」僕は父さんの正面に座った。
「配属先はどう?」母が私の前にお茶を置いた。
「うん、ちょっと災難があって村がボロボロになっちゃったんだけど、なんとか復旧できそう。新国家が感じが良くてさ、復旧に必要な資材も人員もたくさん貸してくれた。」
「そうだ、ここに来る時、今月の稼ぎを受け取ったよ」
荷車に乗せていた麻袋を目の前にドスンと置いた。
「特約票900枚入ってるらしい」
姉と弟がざわめいた。「嘘」「明細見せて」
ルーンは給与の明細書をテーブルに広げ、家族は身を乗り出した。
*給与明細
基本指揮手当(復興指導・工程管理):300枚 破壊された村の復旧計画立案、および現地住民・作業員の指揮監督(1ヶ月分)
技術・専門指導手当(資材・人員の効率運用):150枚 支援資材の受入管理、および派遣人員の適正配置・現場安全管理の成果に対する成果給
危険地帯・特殊環境勤務手当:200枚 軍の暴走・略奪直後の治安不安定地域における初期収拾および駐留対応
成果完遂賞与(ハクジャ特別査定):250枚 予定スケジュール内での復旧目途達成、および現地経済圏の早期再建に対する特別報奨金
合計:900枚
「破壊された村」「軍の暴走」「治安不安定」など、不穏な項目がちらつく明細書を見て、家族は少し静かになった。
「…怪我した?」「大丈夫?」家族は複雑な表情で僕を見た。
そうして急に、何かを察したようにみな押し黙った。
タリスが倒壊した。後ろ盾のない軍から迷惑をかけられたんだろうか。
口火を切ったのは父だ。
「守秘義務があるだろうから、ここでは、ルーンの悩みは解決できない。抱えきれなかったら警備員か心理士にこまめに相談しなさい。
すまないね、力になりたいんだが。」
「ありがと、父さん。」沈黙を破ってくれて助かった。
略奪は、タリス倒壊以前の出来事で、「不老者」という新人類による珍事だったと明かすのは、気が引けた。反応に困るだろう。
「みんなはどう?」
「私は相変わらずだよ」
姉のフィンが明細書から目を離し、お茶をそっと飲んだ。
「タリスが倒壊して、タリス硬貨が使えなくなったから、特約票への両替が必要でね。硬貨や装飾品をすべて鍛冶屋で金銀に変えてもらって、両替商に特約票へ変えてもらって、ようやく家族で半年暮らせるだけの特約票を手に入れた。これでルーンが稼いでくれた分を少しだけ使わせてもらえたら、冬越しの備蓄は十分だね。」
「僕の方はね、養成所に変わらず通っているよ。内容は、計算と経済、修理、土壌。ノアリア人の歴史を読む時間があって、この時間は好きだよ。あとで聞かせてあげるね。」弟のテスタは興奮気味だった。
「うん、ぜひ聞きたい」
母が口を開いた。
「父さんと母さんはいつも通りだよ、壊れた、古いタリスの拾得物を交易所でもらってきて修理して売っている。父さんは高い位置にある備品を取ろうとして脚立から足を踏み外したんだ。あと1週間くらいで治るって薬師様は言っておられたよ」
父さんは家族の話に耳を傾け、頷きながら、静かに話者を見守った。
父さんは必要以上に話さない。昔からそれは変わらないみたいだ。
「お風呂に入っておいで。そうしたら食事にしよう。今夜はルーンの好きだった干し肉と玉ねぎのスープだよ。」
「わかった、それじゃ、風呂に入ってくる」
「それから、特約票700枚、渡すね。」
「…ありがとう、姉さんの研究と弟の進学にあてるね」
「うん、母さんも、父さんや家族と旅行行っておいでよ」
僕はさっさと風呂に向かった。家族との会話にいまだに慣れない。
なんだろう、仕事と違う。
「にいちゃん…」
食後、自室に弟が来た。手に厚い本をもっている。
「聞かせてほしいな、僕は本が読めないから助かるよ」
それを聞いて、弟は嬉しそうに駆け寄ってきた。
ノアリアの歴史は、養成所で少しだけ学んだ。
タリスが作った国で、捕囚した奴隷が民に選ばれたそうだ。
ノアリアが次第に発展し、交易が盛んになり、他民族が流入するようになり、由来への劣等感は全く消えさっていた。
テスタの教科書は、ノアリア建国当時に活動していた人々の日記や手紙で構成されていた。




