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ノアリア叙事詩  作者: うめよろし
ククル村の再建

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略奪の真相

 駐在兵は口を揃えて言った。「奇怪な話」「考えるだけ無駄」


 帰郷をともにしている兵は、ククルの災難の詳細を教えてくれた。


 遠征を提案し、略奪を扇動していたのは工兵で、遠征を申請したのは軍隊長。 遠征中、工兵らが恐ろしい形相に豹変し、指揮権を強奪したという。


 異常な状況を見て、一人また一人と脱走した。軍隊長は暴走した部下らを止める機会を伺っていた。狂った工兵・弓兵らが、ククルの環状の防壁に火矢を打ち、村の入り口の門を鉄槌で壊し、各地に火をつけた。軍隊長ともう一人の弓兵は工兵らを止めに入り、肩の肉を噛みつかれたという。


 工兵は食糧庫を探し求め、庫内の麦や干し肉をそのまま手づかみで食っていた。 腹を満たしワインを浴びるように飲み、ふらりと、歩き去っていったという。 まともじゃない。


 軍隊長の部下らは、損害の大きさから、弁解ができず平謝りした。 軍隊長の弁解は支離滅裂だったが、最後に「無駄な遠征に賛成したのは事実です、ククルの貯蔵庫に火をつけました。刑罰を受け入れます。」と言った。


 王はこの軍隊長に恩義があり、本来の人柄をよく心得ていたため、名誉昇進のうえタリス国から追放し、引き続き同じ経済圏で生活させ、心理士をつけさせた。現在は、当時の状況について、心理士の手を借りて整理しているという。 軍は慢性的な人手不足のため、部下たちは一ヶ月牢に入れられ、心理士と週二回面談をしたのち、通常業務に戻らせた。


「へえ、遠征の提案をしたのは工兵だったのか。」


 ベンチでぼんやり考えていたら、いつの間にか隣に男性が座っていた。


 知らぬ間に、顛末を話してしまっていたらしい。守秘義務を違反した。


「焼かれた村の復興なんて、よくやり遂げたね。」


 ルーンは涙が出て、止まらなくなった。 「人材とか資材、届けてもらえたから…。」


「鬱になるよ。略奪について、君は考えるべきじゃない。やり遂げたことだけ考えるんだ。その問題は他の人が対処する、早く家族の元へいけよ。」


 ルーンは涙を拭いながら頷いた。 「貴方は…。」


「俺は医者だ。今日は午後から検診だから、暇で散歩してたんだ。 君の話、興味深い。『虫食い』かもしれない。」 医者は腕時計を見た。


 ルーンは顔を上げた。「虫食い?」


「人の社会に紛れながら暮らす新人類だ。一定数いるんだ。 人の内臓を食う虫がいてね、口腔内に侵入するんだ。それで、様々な化学反応が起こり、宿主が「不老者」となる。老化や病気のたびに若く正常な内臓組織を再編成する。栄養補給は必須だがね。欠陥住宅に住む低所得層や兵舎で起こる可能性が高い。」


 男は噴水を見つめながら言った。


「なぜ、虫食いの仕業と思ったのですか?」


「略奪の詳細と、虫食いの初期段階に類似点が多いからだ。


 およそ人と思えない、その場しのぎの栄養補給と威嚇行動の短絡的なふるまい。先行研究の事例にそっくりだ。 虫食いは、初期段階で、内臓の脱分化・解体から再構築に至るなかで、体内で強烈な代謝反応が起きるため、膨大なカロリーと栄養を消費する必要がある。


 ワインは、高カロリーな食事の効率的な吸収を促す効果があるから、彼らの食事の共に必須だ。頻繁に腹を空かせ食事をしていたら、生活が立ち行かなくなるからね。そして完成期、若い内臓組織が定着し不老システムが確立すると過食は終了。水や食物を一切補給せずに肉体・運動能力を維持して活動可能となる。


 人間の心臓の鼓動は生涯で15億回と決まっているが、不老者は基本的に心音も脈拍も存在しない。体温は周囲に馴染み、呼吸は極めて浅い、あるいは停止している。人間に擬態するときだけ心臓の鼓動を脈打たせる、そうやって生体反応をコントロールする。」


 ルーンは何気なく腕の脈を調べた。 「…それなら、寿命をいくらでも伸ばせますね。」


「虫食いを発症した工兵は『不老者』としては初期段階にあり、腹を満たすために帝都から離れた場所で略奪を行い、食い荒らし、失踪したのですか。」


 男は頷いた。「私も同じように考えている。」


 それからしばらく沈黙が続き、広場の時計を見て、ノアリアに到着してから2時間以上経っていることに気づいた。


「悪かったね。長話に付き合わせて。家族に会わないとね。」


「貴重なお話をありがとうございました。」


「不老者について、論文を書いた。審査が通り書籍化されてる。今度会うとき、よければ渡すよ。自分の身に何が起きたかわかれば、より憎しみに囚われず、感情を整理できるはずだから。」


「ありがとうございます。」ルーンは藁にもすがる思いだった。 この話を聞くまで、怒りと悔しさでいっぱいだった。


「虫食いがみな、件の工兵と同じとは言えない、初期段階を超えて、慎ましく静かに生きている方も大勢いる。それじゃ。」


「あ、あの…次、いつならお会いできますか。

それから、お名前を伺いたいです。」


「ユセフだ。明日、十五時、広間の目の前の大通りに向かって右手に軽食屋が見えるか、そこで落ち合うのはどうだろう。」 「わかりました。」 「それではまた。」 ユセフはすっと立ち上がり、左手のスロープを下り、通りに沿って去っていった。


 僕はしばらく、ぼんやりベンチに座っていた。


 うまく言えないけど、解決したかった感情を、解決できた。


 あの略奪には、人間の感情が介在していない、虫がやらせたんだ。   怒りが湧かなくなった。


 僕は家族と村の復興を気に掛ければいい。 立ち上がり、医者の向かった方面を見てから、家族が暮らす住宅街へ向かった。



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