訓練場
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世界を喰らい尽くす暴食の王は、少女との誓いだけは喰い尽くさない。
孤独な復讐の少女と、不器用な悪魔の王が紡ぐダークファンタジー、どうぞ最後までお楽しみください!
朝の訓練場は騒がしかった。
剣戟。
怒号。
土煙。
いつも通りの光景。
――エレナが現れるまでは。
「……来た」
誰かが呟く。
空気が変わる。
視線。
沈黙。
小さなざわめき。
悪魔契約者。
昨日から、エレナにはそんな噂が付きまとっていた。
エレナは何も言わない。
無言で木剣を取る。
肩の上で羽音が鳴った。
ブゥン。
『……視線が増えたな』
「お前のせいでしょ」
返事はない。
教師が気まずそうに咳払いする。
「今日の実技は対魔戦闘訓練だ!」
訓練場の中央。
鉄格子の奥で、黒い影が唸っている。
下級模擬悪魔。
本物ではない。
だが。
下級悪魔の魔核を使って作られた危険な訓練用魔獣だ。
「二人一組で戦え!」
教師が名簿を見る。
だが。
空気が重い。
誰もエレナを見ない。
組みたくないのだ。
教師が困ったように眉をひそめた。
その時。
「僕が組みます」
静かな声。
ラインハルトだった。
ざわめきが広がる。
エレナは露骨に顔をしかめた。
「……嫌なんだけど」
「僕も好んではいない」
即答だった。
ラインハルトは細剣を抜く。
白銀の刃。
無駄がない。
それだけで周囲の空気が張り詰めた。
教師が慌てて叫ぶ。
「では始め!」
次の瞬間。
鉄格子が開いた。
黒い影が飛び出す。
速い。
四足。
裂けた口。
鋭い牙。
生徒たちが後退る。
だが。
エレナは前へ出た。
地面を蹴る。
一直線。
悪魔が飛びかかる。
牙。
爪。
殺意。
その全てへ踏み込む。
木剣が唸る。
横薙ぎ。
鈍い音。
悪魔の首が不自然に曲がる。
だが。
止まらない。
エレナはさらに踏み込む。
振る。
叩く。
潰す。
何度も。
何度も。
骨が砕ける音。
肉が裂ける音。
訓練場が静まり返る。
悪魔はもう動いていなかった。
それでも。
エレナは止まらない。
木剣が何度も振り下ろされる。
まるで。
憎しみそのものを叩き潰すみたいに。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
『……壊れるぞ』
「うるさい」
さらに振り下ろそうとした瞬間。
ガキィン!!
鋭い音が響く。
木剣が止まる。
ラインハルトの細剣だった。
蒼い瞳が静かにエレナを見る。
「もう終わってる」
「……」
「そいつは動いていない」
エレナの呼吸が荒い。
頭の奥が熱い。
黒炎。
飢え。
もっと壊せ。
もっと殺せ。
奥歯を噛み締める。
違う。
これは自分じゃない。
ラインハルトの瞳が細くなる。
「……そこまで悪魔を憎む理由は何だ」
その瞬間。
エレナの呼吸が止まる。
嫌な臭いがした。
古い血の臭い。
喉の奥が焼ける。
エレナは奥歯を噛み締めた。
「……お前には関係ない」
掠れた声だった。
ラインハルトは黙る。
追及しない。
ただ。
静かにエレナを見ていた。
その視線が妙に腹立たしい。
その時。
訓練場の端で教師たちの声が聞こえた。
「北部の村だと?」
「ああ。最近、行方不明者が増えてるらしい」
「悪魔災害か?」
「分からん。だが妙なんだ」
声が小さくなる。
エレナの耳だけが拾った。
「……生き残った村人が、“奇跡を見た”と騒いでいる」
奇跡。
その言葉だけで。
背筋が冷える。
肩の上。
羽音が止まる。
静寂。
ベルゼブブは何も言わない。
それが。
何より不気味だった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
少女と悪魔が仕掛ける偽りの世界への反逆劇を、ぜひ明日も見届けてください!
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