監視の目
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世界を喰らい尽くす暴食の王は、少女との誓いだけは喰い尽くさない。
孤独な復讐の少女と、不器用な悪魔の王が紡ぐダークファンタジー、どうぞ最後までお楽しみください!
翌日。
教室は静かだった。
静かすぎた。
エレナが扉を開けた瞬間。
話し声が止まる。
視線が集まる。
そして。
逸らされる。
誰も近づかない。
昨日まで無契約者を嘲笑っていた生徒たちですら。
今は違う。
恐れている。
まるで。
触れれば壊れる爆弾を見るみたいに。
エレナは無言で席についた。
重い。
空気が。
視線が。
全部。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
『孤独だな』
「お前のせいでしょ」
小さく吐き捨てる。
窓の外を見る。
騎士たちが訓練している。
笑い声。
剣戟。
普通の光景。
なのに。
自分だけ別の世界にいるみたいだった。
その時。
教室がざわつく。
「白翼……」
誰かが呟いた。
扉の前。
一人の少年が立っていた。
金髪。
蒼い瞳。
整いすぎた顔立ち。
静かに。
空気だけが張り詰める。
生徒たちが慌てて道を空けた。
少年は真っ直ぐエレナの席へ向かってくる。
一歩。
また一歩。
近づくたび。
圧が増す。
強い。
なのに。
どこか危うかった。
鋭すぎる刃みたいに。
「エレナ・クロフォード」
穏やかな声だった。
「ラインハルト・フォン・アストリアだ」
周囲が息を呑む。
エレナは眉をひそめた。
「……何の用」
「セラフィム様から言伝だ」
ラインハルトは淡々と言う。
「しばらく君を見ておけと」
「監視ってこと?」
「そう捉えても構わない」
即答だった。
悪意がない。
だから余計に腹が立つ。
エレナは舌打ちする。
「私は動物じゃない」
「だろうね」
ラインハルトは静かに答えた。
「だから僕も、まだ判断できていない」
その言葉に。
エレナは少しだけ違和感を覚えた。
見見落としていない。
恐れてもいない。
ただ。
観察している。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
『気に入らん目だ』
その瞬間だった。
ラインハルトの瞳が揺れる。
空気が変わった。
黄金の光。
淡い。
なのに。
息が詰まる。
窓ガラスに亀裂が走った。
生徒たちが悲鳴を上げる。
ラインハルトが苦しそうに胸を押さえた。
光が不安定に揺れる。
エレナの背筋に悪寒が走る。
見えない。
なのに分かる。
何かいる。
巨大な何かが。
ラインハルトの後ろに立っている。
『――ベルゼブブ』
声が響く。
低い。
重い。
それだけで空気が震えた。
肩の上。
小さな羽虫が羽音を止める。
静寂。
初めてだった。
ベルゼブブが黙ったのは。
エレナの喉が鳴る。
怖い。
違う。
緊張だ。
ベルゼブブが。
緊張している。
数秒。
重い沈黙。
やがて。
小さな羽音が鳴った。
ブゥン。
『……久しいな、ミカエル』
次の瞬間。
黄金の光が膨れ上がる。
教室が揺れた。
机が軋む。
悲鳴。
圧力。
空気そのものが裂けそうだった。
エレナは咄嗟に立ち上がる。
その瞬間。
頭の奥で鐘の音が鳴った。
教会。
赤い月。
祈る神父。
血。
吐き気。
呼吸が乱れる。
「……っ」
視界が赤く染まりかける。
飢え。
黒炎。
喰いたい。
違う。
駄目だ。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
『抑えろ』
低い声だった。
初めてだった。
命令ではなく。
制止だったのは。
エレナは奥歯を噛み締める。
黒炎を無理やり押さえ込む。
その時。
ラインハルトが小さく息を呑んだ。
初めて。
その顔に感情が浮かぶ。
困惑。
理解できないものを見る目。
「……何なんだ、君は」
エレナは答えられなかった。
自分でも。
分からなかったからだ。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
少女と悪魔が仕掛ける偽りの世界への反逆劇を、ぜひ明日も見届けてください!
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