再契約の儀
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世界を喰らい尽くす暴食の王は、少女との誓いだけは喰い尽くさない。
孤独な復讐の少女と、不器用な悪魔の王が紡ぐダークファンタジー、どうぞ最後までお楽しみください!
翌日。
空は晴れていた。
昨日の深紅が嘘みたいに。
王立騎士学校の中央広場には、大勢の人間が集まっていた。
教師。
騎士候補生。
騎士団員。
前例の少ない再契約の儀。
学園中が見守っている。
その中心に立つのは――エレナだった。
視線が痛い。
好奇。
恐怖。
嫌悪。
慣れている。
無契約者だった頃から、ずっと。
「深紅の瞳じゃない……」
誰かが呟く。
エレナは目を伏せた。
朝、鏡を見た。
瞳は元に戻っていた。
少しだけ安心した自分がいた。
だが。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
夢じゃない。
最悪なことに。
現実だ。
壇上にはセラフィムがいた。
白銀の鎧。
純白の外套。
蒼い瞳。
彫像みたいに動かない。
だが。
視線だけは、静かにエレナを見ていた。
「始める」
短い声。
ざわめきが止む。
魔法陣が光を放つ。
空気が震える。
契約の儀。
十五歳の春。
一度だけ許される。
天使との出会い。
エレナは知っている。
何も起きないことを。
期待して。
傷つくことを。
知っている。
光が空へ昇る。
やがて。
一柱の天使が現れた。
翼。
光輪。
柔らかな光。
周囲から歓声が上がる。
だが。
天使はエレナを見た瞬間、動きを止めた。
目が揺れる。
悲しそうに。
苦しそうに。
何かを諦めるみたいに。
そして。
何も言わず消えた。
ざわめきが広がる。
二柱目。
現れる。
エレナを見る。
消える。
三柱目。
四柱目。
誰も契約しない。
誰も。
誰も。
誰も。
胸が痛い。
分かっていた。
知っていた。
それでも。
少しだけ期待していた。
愚かだ。
本当に。
俯く。
その時だった。
ざわっ。
空気が揺れる。
違和感。
天使たちが動かない。
去らない。
全員。
空を漂ったまま、エレナを見ている。
いや。
違う。
正確には。
肩の辺り。
ブゥン。
羽音が鳴る。
いつも通り。
小さな羽音。
なのに。
その瞬間。
天使たちの光輪に亀裂が走った。
ピシッ。
乾いた音。
一柱の天使が苦しそうに胸を押さえる。
周囲が静まり返る。
あり得ない。
天使が。
怯えている。
セラフィムが初めて目を見開いた。
蒼い瞳に浮かぶ困惑。
理解不能なものを見る目。
エレナの背筋が冷える。
肩の上の羽虫を見る。
小さい。
弱そうな虫。
なのに。
天使たちは近づけない。
まるで。
存在そのものを拒絶されているみたいに。
ブゥン。
羽音だけが静かに響く。
その時。
一柱の小さな天使が前へ出た。
淡い光を纏う、小柄な天使。
震えている。
それでも。
ゆっくりとエレナへ近づいた。
周囲の天使たちがざわめく。
止めるように。
怯えるように。
だが。
小さな天使は止まらない。
エレナの前まで来る。
蒼い瞳が、真っ直ぐエレナを見た。
泣きそうな目だった。
そして。
静かに頭を下げる。
契約ではない。
祝福でもない。
まるで。
謝罪みたいだった。
次の瞬間。
天使は消えた。
静寂。
誰も声を出せない。
再契約の儀は終わった。
結果は同じ。
無契約者。
なのに。
昨日までと同じ空気ではない。
誰も近づかない。
広場全体が、エレナを避けていた。
まるで。
触れてはいけないものを見るように。
エレナは拳を握る。
また選ばれなかった。
悔しい。
苦しい。
騎士になりたかった。
本当は。
今でも。
胸の奥が痛む。
肩の上で羽音が鳴った。
ブゥン。
エレナは睨む。
「……何なの、お前」
羽虫は答えない。
ただ。
静かに羽を鳴らすだけ。
ブゥン。
その時。
壇上のセラフィムが小さく呟いた。
「……あり得ない」
その声だけが。
妙に静かに広場へ響いた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
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